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2007年08月31日

日展100年展

2007年7月25日−9月3日/国立新美術館

日展100年良くも悪くも日展には歴史がある。

いや、歴史だけがあると考えている人も少なくないだろう。歴史は芸術的価値を査定する権威をもたらす。残念なことに、おそらく今の日展はその最後の砦ともいえる権威すらなくなってしまい、形骸化の見本ともいえる組織となってしまっているのではないか。事実、今回の展示会でも並んだ絵の多くが1950年代までのものである。そのおかげで、有名な画家の作品を数多く見ることができたので個人的には満足しているが、次の時代を示すための展示会であったかというとかなり疑問である。

また、戦争を匂わせる作品が完全に漂白されていたことも気に食わない。戦争画が好きだからそればかりをやってほしいと言いたい訳ではない。今回の展示会を行うにあたって、かけられたフィルターがかなり強すぎるのではないかと感じたのだ。脱色され味も素っ気もない日展100年。そんな時代性を取り除いた展示会にするのなら、このようなタイトルをつける必要はなかったのではないかと思う。

今年から日展は国立新美術館に会場が移るらしい。その宣伝も含めてこのようなイベントを企画したのだろうか。そう思いたくなるような、寄せ集め感が漂う展示会だった。

もう一つ。

国立新美術館に行ったのは今回が初めて。建物は何かと話題の黒川紀章さんによるデザインだ。これが思いのほか良かった。屋内の空間もいい感じだったし。石原慎太郎都知事が言ってた様に、こういう発想ができる人を政治家にするのはマズいかもと思ったりもした。

Posted by Syun Osawa at 23:52

2007年08月29日

ドナルド・ダックの世界像

小野耕世/1999年/中央公論新社/新書

ドナルド・ダックの世界像僕が読んだこの本は、1983年に発行された新書の復刻版らしい。

ディズニーに関する本は数多く出版されているが、その輪郭をドナルドから捉えているところにセンスを感じさせる。さすがは小野耕世。

この本の内容は大きく分けて二つある。一つは1930年代までのディズニーの足跡。そして、漫画を中心としたドナルドについて。後者はドナルドの声を担当したクラレンス・ナッシュや漫画版ドナルド作品を描き続けたカール・バークスについて言及している。特にバークスの漫画についての論考は深かった。

残念ながら僕はドナルドの漫画を一つも読んだことがないので、小野さんが書かれた粗筋から推測するほかない。何でも、バークス作品には他のディズニー作品にはみられないシニカルな表現などもあったらしい。それでも第三国の人を下に見ているような表現も多かったらしく、その点も含めて考えると、ドナルドという存在は良くも悪くもアメリカ人の擬人化といえるのかもしれない。

それがより明確なるのが第二次世界大戦時のディズニーとプロパガンダ映画との関わりである。僕は 戦争と芸術 を考える上で、この部分は今後より深く学ぶ必要があると感じている。端的に言うと、ディズニーは戦時下には経営者であった。そのため労働争議を起こす共産主義者が嫌いで、戦争になったとき積極的に軍部に協力した。『 プロパガンダ映画のたどった道 』を読む限り、この状況は当時の日本映画界とも大変よく似ている。

画家の 藤田嗣治 は戦中に積極的に戦争画を描いたため、戦後、戦争責任の矢面に立たされることになった。一方、ディズニーは戦争を通して借金を返済し利益を上げたにも関わらず、そのような責任を取ることなく世界中に夢を与え続けている。

ディズニーは戦中にかなり多くのプロパガンダ作品をつくったらしいのだが、残念なことに僕はその多くを見ていない(『総統の顔』は見た。たしかに素晴らしい作品だ)。まずは映像を見なければ話にならんな。

ところで、ジブリには労働組合って存在するんだろうか?

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:15

2007年08月25日

海野十三戦争小説傑作集

海野十三/2004年/中央公論新社/文庫

海野十三戦争小説傑作集当たり前の話だが、海野十三の戦争小説は戦前、戦中に書かれている。そのことを念頭に置くとフィルターがかかりすぎて、小説の楽しみ方を誤るのではないかと少し不安だった。

では、戦争小説の楽しみ方とはなんだろう?

あるかもしれない架空の戦争を妄想する。これは楽しい。では、実際に起こっている戦争を物語の舞台にするとどうなるか? 「空襲下の国境線」はロシアとの国境線付近での戦闘を軸にしている。一斉攻撃に参加できなかった3人のパイロットが、味方のピンチを救うべく、戦闘機に乗り込み敵のパラシュート部隊に攻撃を加えるという話。どのパラシュートも降下後まもなく死体を吊るしているというグロいオチであまり楽しめない。

では、現実の戦争を舞台にすると楽しめないのか?

日米架空戦記集成 』にも収録されていたスパイ小説「アドバルーンの秘密」などは恋愛も絡んだサスペンスで楽しく読むことができる。他にも無国籍人の金博士による秘密兵器開発の話も楽しかった。

海野十三の戦争小説の中には空襲の話が多く登場する。空襲は大本営発表の嘘とは違う現実に起こっている事柄を書いており、唯心論的なプロパガンダに彼が参画して戦争小説を書いていたとは思われない。空襲小説はエヴァともつながるSF小説の骨格を形作ってもいるし、どこまでもエンターテイメントとしての要素が強かった。

敵目線に書かれている作品については少しテクニカルな印象。敵の作戦が失敗し、やっぱり日本のほうが凄いみたいなオチに持っていかれるので、なんとも微妙な気持になってしまった。たしかにこういう作品を見ると、なにやら国威発揚の風に煽られて…という感じがしないでもない。

というわけで、僕フィルターだけでなく、作者のフィルターも戦時仕様であり、イデオロギーがにじみ出てしまう感は否めない。ただし、だからといって「戦前・戦中の戦争小説=悪」というは、やはりおかしいのだ。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 08:36

2007年08月19日

コミックマーケット 72

2007年8月17日−19日/東京国際展示場

コミックマーケット 72暑かった…暑過ぎた…

しかも、いつもより入場に時間がかかった。開催時期がズレたからなの? とか思いながら中に入ったら、混み具合はそれなりだったように思う。何でだろ?

今回はほぼ事前チェックなし。

自主制作のアニメとか外人さんが描いた同人誌とかに絞っていろいろ狙いを定めようと考えていたのに、夏バテも重なって一切チェックできなかった。精力的にいろいろ見回ることもせず、企業ブースも「あー、鹿野優以がいるー」くらいの感じで素通り。

いつもの事ながら、上手い絵師さんが本当にたくさんいる。ビッシリと並んだ机に積まれた本。その表紙に描かれた絵の熱量(=情熱)にグッと来るからこそ、毎年行こうと思うんだよな。あそこまでの熱量は日展でも二科展でも体験することはできないだろう。

(手に入れた本など)
okama『Useless Beauty』
GOD HAND『GOD HAND Zero』
MARUME漫画通信講座『ドイツより愛を込めて…』
ムサシノ工務店『ランズエンド・ガーデン 学校廃墟篇』
ムサシノ工務店『ランズエンド・ガーデン 2007 SPRING』
オタクとデザイン『OTAKU×DESIGN 2』
夏目わらび『エルザ 黒髪篇』

Posted by Syun Osawa at 23:37

2007年08月17日

牛久大仏=ヒカル☆=岡田変遷=炎上譚=世界戦

牛久大仏正月よりも長かった盆休みが終わろうとしている。

猛暑の中、牛久大仏などへ行った。うーん。よくわからんかった。

車の中で友人が聴いていた曲が気になった。その曲というのはBEGINの「島人ぬ宝」を ALLiSTER(アメリカのパンクバンド)がカバーしたものらしい。

Guilty Pleasures 』というカバーアルバムに入っているもので、これがなかなか耳に残る。モンマジとか古くはベン・フォールズの「金を返せ」とか、日本語で歌うのが流行ってるのか? 少なくとも 日本で歌手になりたい人 は増えているようだ。

ところで、myrealbox.comについて。

何でもセキュリティツールを新しく導入したらしく、結果として日本語のメールがスパム扱いを受けて根こそぎ持っていかれていたらしい。つたない英語でメールを送ったら少しだけ改善された。重要なメールが何通か行方不明になってしまったのが気がかりだ。

(手に入れた本など)
図録『男鹿和雄展』(東京現代美術館)

深爪からの卒業

深爪が好きでずっと続けていたのだが、巻き爪や陥入爪になるなどよくないことを知って伸ばすことにした。キーボードを打つときにカチカチなったりして気持悪い。

ポケモンのスタンプラリー

ポケモン以前に実施されていた各駅のイメージにあわせたスタンプラリーの方が情緒があったのに人気がなく、ポケモンにしたとたん子どもが列を成していた。ナルトのスタンプラリーといい、この手のものはペラペラの文化の薄さ自慢のようである。

ゴキブリは二度見る

ゴキブリは嫌いだが、殺虫剤などをかけると一旦物陰に逃げ込んでも、最後は必ず目に見えるところで死んでくれる。偶然かと思っていたが、そうでもないらしい。

可愛いときの宇多田ヒカル☆

これで下品なくらい金持ってるんだから嫌になるぜ。

室井さんの漫画来たコレ!

やっぱりストーリー漫画でした!

新東京タワーなんてつくるのか…

全然知らなかった。しかも、ワンセグのためとか。そもそも、何ゆえ地上波デジタル? あと4年ほどで今使ってるテレビが使えなくなるのか…よく考えたら無茶な話だよなぁ。

岡田斗司夫さんの変遷

見た目とお金はよく似ている。これだけでは幸せにはなれないが、避けられる不幸はあるからだ(by 村上龍)。

吉野紗香さんのブログ炎上

書き込みが増えてからは勢いが増してしまって「炎上」状態になるのだろうけど、最初にきっかけをつくる人が数人いる。そして、たいてい2chにスレが立っている。mixiってこともある。

一方、インリン様のブログでは…

このくらい書いても炎上している様子がない。コメント欄が怪しいと思ったら、かなり選別しているようだ。そう考えると、炎上対策なんて楽なものである。コメント欄消せばいいんだから。

オザケンのゲバラ萌えに突っ込む文化系左翼

文化系左翼を自称するのも同じくらい恥ずかしいと思いますが…。

内藤大助×亀田大毅が決定!

その会見映像。サングラスをしているので表情は読み取れないが、内藤選手の「ビビるなよ」の後、顔がちょっとこわばったのが印象的だった。そりゃビビるよなぁ。

入場制限が必要なほど詰め掛けている人たちの真意は?

男鹿和雄展については内容以外の点で言いたいことがあるが、ひとまず常設展の岡本太郎の壁画など(撮影OKだったので)。

Posted by Syun Osawa at 20:15

2007年08月15日

科学と非科学の間で

安斎育郎/2002年/筑摩書房/文庫

科学と非科学の間ニセ科学批判の本は以前から結構な数の本が出版されているらしい。

この本もそういった類の一つだろう。マイナスイオンのような「科学を装ったニセの何か」を扱うだけでなく、オカルト的なものや占い、超能力にまで手を伸ばしている(そっちがメインといった方がいいか)。ニセ科学の知識を深めるためのガイドとしては役になったが、こっくりさんあたりはいいんではないかとも思う。

あと、最初にかもがわ出版から出版されたこともあって、左翼っぽい言動が目立つ。ニセ科学フォーラム のとき、会場からの意見として「左翼的なイデオロギーを前面に出すべきではない」というような指摘があったが、意外にこのあたりに拒否反応を示してしまう人もいるのかも。

唯心論者には唯心論を持ってあたるというのは同意。心でっかちな日本人は心の問題を軽視する人を嫌う傾向があるように思うから。これについては、唯物的な考え方そのものが嫌われているというよりも、指摘する人が心を軽視していると感じていることに対して拒否反応を起こしているのではないかと思うので、実践的に対処する場合はそこらを慎重に取り扱う必要があるかもしれない。

Posted by Syun Osawa at 00:15

2007年08月13日

メール不調=雑誌とか=室井さん連載=ガチンコ

日常生活で使っている海外のフリーメール(myrealbox.com)がおかしなことになっている。メールが行方不明らしい。エラーで戻ってくるというのならいいのだが、送られてきたメールが所在不明になる。うち何通かがたまに受信されるから対処が難しい。うーん、どないしよ。

今週は買おうと思ったが見送った雑誌などがいろいろある。

一つは『Pen No.224』で特集は「世界のコミック大研究」。もう一つは『わしズム 2007年8/30号』で戦争画についての記事が掲載されている。よしりんの長編戦争漫画の連載が始まったのも興味深い。どちらも買えばいいのだが、おそらく古本ですぐに出るだろうということで一旦スルー(情けない話だ)。

(手に入れた本など)
北方謙三『逃がれの街』(集英社)
瑞穂れい子『あまりにも悲劇な世界史』(河出書房新社)
やまだともみ『萌える数学』(九天社)
大友克洋『ショート・ピース』(双葉社)
谷口ジロー&関川夏央『『坊っちゃん』の時代』(双葉社)
(音楽CD)double face『拝啓、或る朝に』
(音楽CD)VA『テクノ歌謡コレクション Polydor編』
(音楽CD)Linkin Park『Meteora』
(音楽CD)BT『Emotional Technology』
(音楽CD)Sarah McLachlan『Bloom (Remix Album)』

double face聴きまくり。テンション上がる。他のもすべて良品。

フリーペーパー関係では、宣伝誌『本 2007年8月号』(講談社)に大澤真幸さんと東浩紀さんの対談記事。まずまず。

宣伝誌『熱風 2007年8月号』(ジブリ)は音楽特集で久石譲さんや鹿野淳さんが寄稿している。久石さんの作曲に関する音楽理論は実践的でなかなか面白い。これは楽器のできない評論家には書けない。鹿野さんの野外フェス話は納得。僕も野外フェスはみんなが笑顔なのが好き。音楽ファンの小難しいことが抜きにされているのがいい。高萩宏さんの夢の遊眠社回顧録も中盤戦に突入。唯一続けて読んでいる連載モノ。

室井大資さんが長編漫画の連載を始めるらしい!

久しぶりにストーリー漫画が読めるのかな? めっちゃ楽しみ☆

RSSリーダーを情報収集に使う理由がわからない

そういや僕も情報収集としては使っていないな。

今更ながらのガチンコファイトクラブ

顛末記を本人が書いている。わりと普通の演出がなされていたらしい。あれはバラエティだからいいとして、TBSに問題があるとすれば、あの演出をプロボクシングの世界にそのまま応用させたことだろう。

「最高です」って言う人たち

ヒーローインタビューで「最高です」って言うのはなぜ?
あと、泣くのもよく見かける。最高も涙も消費財なのか。

Posted by Syun Osawa at 01:01

2007年08月09日

キリクと魔女 2

監督=ミッシェル・オスロ/2006年/フランス/アニメ

キリクと魔女 2キリクと魔女 』の続編。

この手のアニメに続編がつくられるのはちょっと意外だった。人気があったんだろうか? ようするに、フランス版一休さんなんだよな、僕の中で。魔女は登場するけれど、ファンタジー全開ってわけでもない。結局はキリクの理論的なアイデアによって問題を克服していくわけで、そういう目で見ると教育アニメとしても質が高いように感じる。だからジブリなのかも。

続編もまずまず面白かった。

特に今回は旧態依然とした村の中でのキリクと村人との関係がよく表現されていたように思う。村では村長の言うことが絶対である。村人が作った畑が何ものかによって荒らされたとき、村長は魔女の仕業だと言うのだが、キリクは耳を貸さない。そして実証的な方法によって黒ハイエナの仕業であることを突き止めてしまった。

他のエピソードもすべてそのような形で進んでいく。村の中にある迷信のようなものに対して、超能力でもって解決するのではなく、理にかなった方法で問題を解決していくところが新鮮。ちょっと左翼っぽく、そこが高畑勲さんのメガネに適ったとかそういうことを突っ込むつもりはないが、今の日本のクリエイターの中からはつくられにくい作品であることは間違いない。

音楽も前回に引き続いてよかった。「キリクは小さい。キリクは〜」みたいな変な菓子も妙に耳に残る。また続編がつくられるのだろうか? 次やるならTVシリーズだろうな。

画面の演出は前回のほうが好みだった。

Posted by Syun Osawa at 00:52

2007年08月01日

算数・数学が得意になる本

芳沢光雄/2006年/講談社/新書

算数・数学が得意になる本この本に書かれている内容がサクッと読み込めるようになれば、世間一般からすれば算数・数学が得意ということになるのかもしれない。

内容的には小学校から高校までをカバーしているものの、実践的なものではなく、むしろ論理的な足腰を強めるための手がかりが記されている。そのため、問題の解き方を中心に構成された『 忘れてしまった高校の数学を復習する本 』よりも数学の深度は高めだった。

この本を数学に対する造詣を深める楽しみを軸にした『 算数の発想 』のような本と考えるならば、少なくとも「数学・算数が得意になる本」ではないのかな? …とも思う。まぁ、新書のタイトルなんてのは、担当編集者が考えたんでしょうけれども。

小学生や中学生がつまづくポイントを考察しているところが僕は一番勉強になった。このつまづきって結局のところ年齢を問わずつまづいている可能性のあるポイントであるので、そういう意味でも、ゆっくり、じっくり数学を勉強していきたい僕のような大人にはうってつけの本だった。

Posted by Syun Osawa at 23:29