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2011年06月16日

「だまし」の心理学

安斎育郎/2007年/PHP研究所/四六

「だまし」の心理学震災の後、原子力関係の専門家がたくさんテレビに出ていた。国や東電に対して肯定的な人、否定的な人がいて、情報も少ない中でのそれらの意見は僕たちをいたずらに混乱させるばかりだった。そんな中で、ふと思い出したのが安斉氏だった。安斉氏は東大で働きながら、原子力・核政策を批判していた方で、今の状況では最も僕が信頼をおきたい学者の一人だったのだ。

てなわけで、ナツメ社から出ている『放射線と放射能』を読もうかとも思ったのだが、以前『 科学と非科学の間で 』を読んだこともあって、今回の本をチョイスしてしまった。したがって、上に書いた原子力うんぬんは、この本とは一切関係なかったりする(え?)。

ニセ科学の話はもともと好きだし、オカルトを科学的に取り扱った本などは僕もちょこちょこ読んでいる。そのせいか、それほど目新しい内容もなく、サラッと読み終えた。もともと僕自身、あまり騙されやすいほうではなく、この本で指摘されていた数字のトリックなどについても、猜疑的な目で見る習慣がついてしまっている。その上で、さらにこういう本を読むわけだから、どんどん僕は騙されにくい奴になってると思う。

問題があるとすれば、たぶんそこかな? …と思う。

よーするに、騙されたくないと思いながら騙されるからそこにドラマが生まれるわけで、騙されないようにして生きて、実際に騙されないとなると、そこで生まれるはずのドラマもどんどん消えてしまう。昔だったら、ねずみ講みたいなものに引っかかる人も山ほどいたけれど、今は各人のリテラシーも高まっているし、システムも防衛的になっているからなかなか大きな事件にまでは至らない。それはそれで素晴らしいことのように思える。しかし、そうやって最適化が進んだ先、つまり人が騙されにくくなった先の地平に、本当に人の幸せはあるのだろうか? などという、全然ベクトルの違うことを考えながらこの本を読み終えたのは、僕が中二病をこじらせているからに他ならない。

Posted by Syun Osawa at 01:12

2011年06月01日

食の安全と環境

松永和紀/2010年/日本評論社/四六

食の安全と環境「地球と人間の環境を考える」シリーズの1冊として出版されたこの本のサブタイトルは、「「気分のエコ」にはだまされない」だ。空前のエコブーム(もはやブームというよりは、社会全体の規範にすらなりつつある気もする)に水を差すようなこの言葉から、即座に地球温暖化懐疑論などを連想してしまうかもしれないが、あの手のカウンターゲームのためにこの本は書かれているわけではない。

この本では、エコに食いつく消費者たちの有機野菜への過剰な信頼や、保存料に対する嫌悪が、食の安全や環境を守るどころか逆に脅かしている可能性があるということを、実証できるデータをもとに丁寧に解説している。例えば、加工食品に保存料を使用しなければ腐敗が早く進むために廃棄が増える。ただでさえ日本は食料の廃棄割合が高いのに、このエコブームによって廃棄割合がさらに高まってしまう可能性さえあるのだ。

また、食糧問題も深刻だ。特に耕地面積の少ない日本では、少ない農地でより多くの作物を育てる必要がある。そのためには害虫駆除のための農薬散布や品種改良を無視することはできない。「ナチュラルな生活」と書くと響きはいいかもしれないが、その内実は自分勝手なエゴかもしれない。その可能性について考えるためのきっかけを与えてくれる素晴らしい本だと思う。

ちょっと回りくどい書き方なのは、そのことについて、素人が正しい知識を持つことが難しいからだ。著者自身も前著『 メディア・バイアス ― あやしい健康情報とニセ科学 』の中で、学生時代には自分自身が批判しているエコブームに対して肯定的な意見を持っていたと書いている。京大農学部で大学院まで行っている著者からしてそうなのだから、素人の僕が気づくはずもないのである。

Posted by Syun Osawa at 21:30