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早過ぎ,そして遅すぎた『人狼 JIN-ROH 』

人狼

 凄い…衝撃的に素晴らしい作品だ。

 しかし,この作品の経緯を知らない人にはちょっと,…いや,かなり難しい作品だったかもしれない。

 この作品のクレジットのどこにも出渕裕の名前が出ていないが,この作品の元ネタは明らかに原案:押井守 ,キャラクターデザイン:出渕裕 ,作画:藤原カムイ の『 犬狼伝説 』なわけです。

 僕がこの漫画を買ったのは 10 年以上も前の話。銀色の表紙の一番最初のヤツだ。今の藤原カムイからは想像もつかないほどリアルでハードボイルドなタッチの作画に,当時ハマっていた『ロードス島戦記』でキャラクターデザインを担当していた出渕裕,そして『パトレーバー』の押井守監督ときては買わないわけにはいかなかった。(実写映画もあった)

 今回の作品は,この世界観に実に忠実に作られていた。しかし,だからこそ『犬狼伝説』及び,『犬狼伝説』巻末に載っていた首都警の年表を頭に入れておかないと,十分には楽しめないのではないかと思う。特に,首都警察と特警の孤立化,公安との対立,そこにゲリラが加わった架空の時代背景を正確に理解しないと,ゆるい作品と思われかねない作品でもあった。

 で,結論を言うと,全くもって無意味である。

 押井守の作品はほとんど大体そうなのだが,全くもって無意味な話である。この話の中に登場するゲリラというのは,おそらく日本赤軍が元になっているだろうし,首都警察の内部に存在する人狼とは,この国の憲法下の中で揺れる三島由紀夫の盾の会のような組織を模したものであると考えられる。しかし,なぜ物語の中でおきているような大きなゲリラ戦が日本の首都で行われなければいけないのかという,根本的な理由に関して,一切の説明がない。この点で,今現実に行われている,アルカイダやパレスチナ過激派のテロとは決定的に違うのだ。

 そして,その決定的に違う点,何故少女が自爆するのかというところについて,この物語の少女は全く持って無意味なのである。また,主人公の男性と恋愛関係に陥る少女のしたたかさ(特にラスト)が,テロとは何か?というところについて,一切の思想も示していない。つまり,この物語の出発点そのものが無意味なのである。これは,出発点が無意味という点では,かわぐちかいじの『沈黙の艦隊』,『ジパング』にも通じるところがある。(もっとも,かわぐち作品は出発点以外は無意味とは思わないが。)

 この辺の話は,長くなるのでこのあたりにとどめますが,とにもかくにも激渋のアニメーションと色彩設定や,媚びないハードボイルドな演出が実に渋い世界観を作り出しています。100 円でこんなものを見ていいのかなってくらい素晴らしい作品でした。

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Composed by Syun Osawa since 10.1997