B E M O D
top
empty.gif
column > animation

猫の恩返し

猫の恩返し

 影が薄く『耳をすませば』と混同されがちな『ギブリーズ2/猫の恩返し』。柏原芳恵と榊原郁恵の区別がつかず、結局二人とも“榊原郁恵”に収束されてしまったように、『猫の恩返し』も『耳をすませば』の副産物としていつの間にか過去に消えてしまいそう。さて。

 相変わらずジブリの作品はよく動く。もちろん Production I.G 作品やマッドハウス作品もよく動くのだが、ジブリのそれは動いている域が長く、かつ執拗だ。しかもそれがディズニーのそれとは一線を画しており、オーバーな動きよりも、よりリアルで微細なしぐさやニュアンスに気が配られている。こうした根本的な技術力の高さは、見ているだけで「ハァ〜」とため息が出る。

 本作品は、前記した『耳をすませば』に登場する猫の人形をヒントにして、物語の概観が形作られている。「もしも猫の世界があったなら?」という幻想的なアイデアを手がかりに、現在を悶々と生きる少女が、生きることへの活力を見出していく。自分自身の曖昧さ(アイデンティティの揺らぎ)を認識し、大人になるための扉を開くという意味では、『千と千尋の神隠し』に近い思想が根底に流れていたように思う。ただ、『千と〜』と異なるのは、設定がその目的に対して直接的で、かつ説教臭いところだ。

 また、猫の世界とバロンがいた猫の事務所のある世界。非現実的な世界があえて二つ用意されたところに何か意図があったのかもしれないが、国語の成績が万年2の筆者にはそれを読み取ることができなかった。

 しかし、ハルとバロンはとても魅力的なキャラクターだった。単純ではあったが凸凹コンビとして明快で、見ていて気持ちがいい。王道でありながら重要な要素である。だが、ストーリーの主題である「少女の成長」に彼らのキャラクター性がどれほど影響を与えたかという意味においては、いささかの疑問が残った。

 最後に、『ギブリーズ2』が高畑勲系であるならば、こちらの『猫の恩返し』は宮崎駿系である。会社の方針かどうかは定かではないが、その色は忠実に再現されていた。二本のの作品を見ながら漠然と思ったのは、この職場にはこの二人の巨匠を尊敬していない人はいないんだろうなぁ、ということだ。もちろん人間的な好き嫌いはあるかもしれないが、彼らの作品に対して絶対の信頼を置いていることは間違いないだろう。だがしかし、その信頼は新しい時代を見つめた創作活動の上では危険ではないだろうか? その信頼を持続し続ける限り、あのスタジオの中から彼ら二人を超える監督が生まれることはないかもしれない。

top
Composed by Syun Osawa since 10.1997