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茄子 アンダルシアの夏

茄子 アンダルシアの夏

「宮崎駿の一番弟子、ついに監督デビュー!」「日本アニメ初! カンヌ映画祭正式出品」などなど、公開前には結構な話題を振りまいていたジブリの中編アニメ作品『茄子 アンダルシアの夏』を鑑賞。

 映画を見終えたあとの率直な感想は、「よくチャレンジしたよなぁ」と「そうか、スカしたか」であった。

 まずは「よくチャレンジしたよなぁ」から。絵を描いている人ならばわかると思うのだが、自転車に乗っている人を描くというのは、実は結構難しい。美大卒ではないので詳しいことはわからないが、自転車に乗っている姿勢というのは、走っているからこそバランスを保っているられる姿勢である。しかし絵にするときは止まっている絵を描く。つまり“走っている状態を想定しながらバランスを描く”のが難しいのだろうと思うのだ。よく見ると、今回の作品についてもバストアップが多く、足元を鳥瞰図的な視点から描き切ってるコマというのは意外と少なかった。意図的なのかそうでないのかはわからなかったが、曽田正人の漫画『シャカリキ』に似た、バストアップを多用した漫画的な演出を数多く見ることができた。

 次に「そうか、スカしたか」。これは、ストーリーの王道をあえて外したという点。これは恐らく意図的なんだろうと思う。もしもこの作品をベタなストーリーにするなら、以下のような感じになるのかもしれない。

 自転車レース(主人公登場)→スペインの田舎町(家族登場)→回想シーン(小さい頃の主人公、街を抜け出したい思い出)→自転車レース(主人公の立場の全貌が見え、レースに勝つことが物語の主題となる)→家族の純粋な応援(主人公の気持ちは複雑)→勝利(主人公の思いは?)→エンディング

 実はこの映画。そのまんまの作りになっていた。しかし、スカしたと筆者が思ったのは、最後まで主人公を描かなかった点である。スペインの田舎町は描いた、家族は描いた、家族の主人公に対する愛情は描いた、でも主人公は描いていないのである。いや…、描いていないというのは少々乱暴かもしれない。実は最後に田舎に残った兄と自転車で並走するシーンがある。実はそこはベタな演出でいうと、一つの泣かせどころである。筆者自身もあのシーンが結構好きなのだが、今回の作品の演出ではあくまでもクールで控えめ。山田洋二の映画のようにはしなかった。

 演出面に関しては、筆者は元来ベタ好きなので、もっとベタベタに家族と地元への思いを描いて、グチャグチャに泣かして欲しかったところだが、アニメーション自体はチャレンジが多く見られいい印象を受けた。特にレース終盤は迫力は、自転車レースをほとんど見たことのない筆者にも伝わる熱っぽさがあり。デフォルメを好まない宮崎アニメとは違う演出で迫力のあるシーンを再現していたように感じた。あれはきっと、監督の才能のなせる業なのだろう。監督は高坂希太郎さん。次回作にも期待したい。

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