bemod

スーパーシートの恐怖( sounding space 展)

NTT インターコミュニケーション・センター というのをご存知だろうか? 西新宿の外れ,東京オペラシティタワーという超高層のビルの 4 階にあるギャラリーである。そして現在,このギャラリーでは『 sounding space 』という音響空間をテーマにした展示会が開かれている。ヒマヒマ人&ミーハー音楽好きの筆者にとって,絶好の時間潰しの場だ。

東京オペラシティタワー はロッテ本社ビルのすぐ隣にある。東京国立劇場や東京オペラシティ・コンサートホールなどが入った巨大総合ビルだ。無意味に高い天井と,無意味に広い空間がバブルな匂いを漂わせているが,ギャラリーとしては申し分ない広さであろう。百貨店で客寄せのために開催される美術展とはさすがに違う。

『 sounding space 』展では,6 人と 3 組のサウンドアーティストが「空間における音」を表現した作品を展示している。会場に入ってすぐに現れる久保田晃弘氏の作品に度肝を抜かれた。「空間の音をコンピュータでリアルタイムに再合成して生み出される映像と高周波音響によって,その相互作用を促している」そうだが,実際よくわからない。しかしながら,壁状設置された 40 個のスピーカーによって,超現実空間を演出するエドウィン・ファン・デル・ハイデの作品や空間に張り巡らされた磁気ケーブルから発される音を受信機付きのヘッドフォンを装着して人工の自然環境を聞くクリスティーナ・クービッシュの作品は「音」の可能性を感じた。特にクービッシュの作品は,空間を動き回るだけでアンビエントな音世界がリアルタイムに作られていき,音楽としての表現手法にリアルタイムと双方向を持ち込んだ画期的な作品といっていいかもしれない。

そして最後に,この展示会の一番の目玉。「スーパーシート」を体験した。

スーパーシートは,わずか 8 畳ほどの室内の真ん中に一つ置かれた椅子である。室内は完全防音,四方八方に巨大なスピーカーが設置されている。目の前には大型のスクリーン。まるで SF 映画に出てくる実験室のような場所に一人で座らされ,密閉空間にされる。この作品は心臓の弱い人や閉所恐怖症などの人は体験させてもらえない。また,緊急時のための非常用スイッチを持たされる。

この作品は「凄い」とか,「美しい」という域を超えていた。「怖い」のだ。自分の頭 30 センチをジャンボジェット機がすり抜けることを想像してほしい。ホラー映画を見た時に感じる恐怖ではなく,人間が生命の危機を感じたときの恐怖を体験できる。素人にはオススメできない。この作品を体験しただけで 800 円を支払う価値はあった。