bemod

2005年01月27日

懺悔録

梶原一騎/幻冬舎

懺悔録move on web. の自己紹介画像が梶原一騎に似ているのは、この本を読み終えた直後に描かれたからに他ならない。この本は数々の有名女優と浮名を流した思い出と、半生を綴ったエッセイである。梶原一騎といえば漫画原作者として有名なのだが、本書の中では作家としての部分はちょこっと触れているだけ、ほとんどは女優との思い出話なのである。これが凄い。

あの厳つい顔で、ケンカが強く、女好き。しかもよくできた嫁がいて、その嫁に愛想つかされて実家に帰られて、その後に台湾の歌手と偽装結婚して、大きな病気をやって、最後に最初に連れ添った嫁と再婚するという本当に漫画のような人生だ。そして、その嫁と再婚する際、うん十歳の花嫁にウエディングドレスを着せて結婚式をやったという逸話を読んで、世の中というものは終わりよければすべてが許されてしまうのだという何かしらの本質を見た気がした。僕はこういう人間論的なものにとっても弱い。

梶原一騎といえば『あしたのジョー』のオープニングシーンにあるような東京のドヤ街で暴れていた不良少年というイメージがある。しかし実は、青山大学附属小学校で学んでいたことは意外に知られていない。つまりボブ・ディランと同じなのである。

僕のような阿呆が彼の作品に触れると、たとえば『あしたのジョー』を見た後にボクシングをしたくなったり、『愛と誠』を見たときに清く正しい情熱的な恋愛をしたいと思うようになる。これは決して読者を突き放したりしない生々しい彼の生き方が、ダイレクトに僕の人生へ語りかけるからに違いないと興奮するからだが、しかしそこには発信者と受信者の間に微妙な温度差があったのだ。早く銀座へ行きたいと思いつつ、ラーメンを食べながら原稿をササッと書き上げる。実は梶原一騎という男はかなり冷静な視点で物事を捉えていたのだと、この本を読んで気づかされた。まぁ、当然といえば当然の話なのだが。

古本屋で購入したものの未読になっている『続・カラテ地獄変』(全10巻)の束を眺めながら、「人間を描く」ためには作家自身も人間らしく生きなければいけないのだと、とっても当たり前のことを当たり前に思った。その答えは「シンプルに考える、シンプルに判断する」に尽くされるのだが、それがいまの世の中、なかなか難しいんだよなぁ。

Posted by Syun Osawa at 19:40