bemod

2005年12月03日

道楽と職業

夏目漱石/明治44年8月、明石にて講演
道楽と職業(青空文庫/図書カード:No.757)

両親に対する言い訳がほしい人にオススメ。引きこもりだ、ニートがどうしたと世間はうるさいですが、このへんの話は平成も明治も変わりません。時勢を語った文章がこんなに普遍的に捉えられるもんかとちょっと関心した。これは夏目漱石が凄いのか、人間が愚かなのか。

職業がどんどん細分化していき、自分の職業以外は何もわからなくなる状況に対しての比喩。

人間が千筋も万筋もある職業線の上のただ一線しか往来しないで済むようになり、また他の線へ移る余裕がなくなるのはつまり吾人の社会的知識が狭く細く切りつめられるので、あたかも自ら好んで不具になると同じ結果だから、大きく云えば現代の文明は完全な人間を日に日に片輪者に打崩しつつ進むのだと評しても差支ないのであります。

上手いこといいますね。差別表現が含まれているので、今はこのように表現されるべきではないと思いますけれど。それにしても明治時代の講演なのに数日前に爺さんが喋ってた内容のようにも感じられて新鮮です。あと、文学についてもサッパリした表現で以下のように語ってました。

がんらい文学上の書物は専門的の述作ではない、多く一般の人間に共通な点について批評なり叙述なり試みた者であるから、職業のいかんにかかわらず、階級のいかんにかかわらず赤裸々の人間を赤裸々に結びつけて、そうしてすべての他の墻壁(しょうへき)を打破する者でありますから、吾人が人間として相互に結びつくためには最も立派でまた最も弊の少ない機関だと思われるのです。

もしかしたら、明治っていい時代だったんじゃないだろうか…。

Posted by Syun Osawa at 23:06