bemod

2005年12月07日

文芸と道徳

夏目漱石/明治44年8月、大阪にて講演
文芸と道徳(青空文庫/図書カード:No.756)

彼がこの題目で語った時期は、自然主義が勢いを増していて旧来のロマン主義との対立が明確になっている様子。しかも時代はまだまだ「ロマン主義>自然主義」なのだという。しかし時代は変わった。

特に道徳との兼ね合いで、明治以前の道徳をロマンチックな道徳、明治以後の道徳をナチュラリスチックな道徳と名づけ

人間の智識が発達すれば昔のようにロマンチックな道徳を人に強いても、人は誰も躬行(きゅうこう)するものではない。できない相談だという事がよく分って来るからである。これだけでもロマンチックの道徳はすでに廃れたと云わなければならない。

と、時代遅れのロマン主義に追い討ちをかけている。もちろん

物は極まれば通ずとかいう諺(ことわざ)の通り、浪漫主義の道徳が行きづまれば自然主義の道徳がだんだん頭を擡(もた)げ、また自然主義の道徳の弊が顕著になって人心がようやく厭気に襲われるとまた浪漫主義の道徳が反動として起るのは当然の理であります。歴史は過去を繰返すと云うのはここの事にほかならんのですが、厳密な意味でいうと、学理的に考えてもまた実際に徴してみても、一遍過ぎ去ったものはけっして繰返されないのです。

ロマン主義の後には自然主義、その反動でロマン主義、その反動で…と繰り返すことをも予期している。時代はその後、太平洋戦争があって、戦後民主主義があって、そして憲法改正へと続いていく。まさに繰り返し繰り返しですね。でも本当に夏目漱石が言っているように、この繰り返しは螺旋状に上へ上へと上昇軌道に乗っているのだろうか?

あと現在は、エラい先生たちが講演する時は、きまって冒頭に「戦後○○年」と語られる。これに対し、夏目漱石の時代は「明治維新後○○年」とくるのだ。どちらがプラスの要素を持ってるかは明白ですね。だから、戦後○○年はやめて、「万博後○○年」とか「東京オリンピック後○○年」もしくは「憲法発布○○年」なんていう風にした方が何となくテンション上がると思うんですけどね。

Posted by Syun Osawa at 23:36