bemod

2006年02月18日

ディズニー・ドリームの発想(上・下巻)

マイケル・アイズナー/2000年/徳間書店

ディズニー・ドリームの発想鈴木敏夫さんの目指す先か?

ディズニー社CEO兼会長が自らディズニー型のコンテンツ・ビジネスの裏舞台を語った半自伝本。上下巻のぶ厚い本にもかかわらず、あまりの面白さに一気に読んでしまった。こういうのを読んでしまうとどうしてもジブリと重ねてしまうわけだ。超雑にその横顔を追うと…。

ディズニーの会長だからエリート教育を受けて順風満帆に下から上がってきた人かと思えばそうじゃない。大学を出たが職にありつけず、パリで脚本家を目指すも挫折して、アメリカに戻る。そして業界関係者に手紙を送りまくって(この数が半端じゃない)テレビ局の下っ端のアルバイトとして業界に入る。テレビ局でキャリアを積み、パラマウント・ピクチャーズへ。そこで『フラッシュダンス』『インディージョーンズ』などを数々のヒット作を作る。その後、ディズニーにヘッドハンティングされた。つまりディズニーとは縁もゆかりもない。知る人ぞ知るジャクソン5のアニメを作ったのもABC時代の彼だし、『ビバリー・ヒルズコップ』の原案を作ったのも彼だったらしい。

パラマウントからディズニーに移る際、部下のジェフリー・カッツェンバーグも一緒にディズニーに移る。二人はディズニーで実写映画に力を入れる。ここで作られたのが『いまを生きる』。凄いねー。彼らがディズニーに来たことで、トム・ハンクスやロビン・ウィリアムズがディズニーアニメの声優をやるんですな。

その後、権力争いの果てにジェフリーとは袂を分かつことになる。ディズニーを去ったジェフリーが作った会社が「ドリームワークス」。後に、『シュレック』や『アイスエイジ』を作る。みんな凄すぎ。

日本ではアニメの学校を国が支援してうんぬんかんぬんというのが花盛りのようだが、少なくともアメリカでは業界の中で、躊躇のない人事(30歳そこそこでCEOとか)などによって揉まれていく仕組みがあるのであって、改革が迫られているのはむしろそこなんではないかと思ったりもする。つまり放送局と大手広告代理店のシェア独占と、買収も政権交代も起こらない動脈硬化状態が最大のガンなんではと思う。

こういう凄い半生を見た上で、日本のディズニーことジブリを眺めてみると見えてくるものがあるんじゃなかろうか。世間では宮崎駿さんの息子が監督をすることで世襲、世襲と騒いでいるようだが、実はそんな事は関係ない。宮崎駿さんが生きているうちはどこまでも宮崎駿さんが中心に回っていくのだ。そしてディズニーがウォルト・ディズニーのブランドであるように、ジブリは宮崎駿さんと高畑勲さんのブランドで運営されていき、それにプラスアルファを加えるのは外部のやり手ということになるんだろう。つまり、世襲も糞もないのだ。そこは市場が判断を下すのであって、たとえ息子が後を継いだとしても経営状態が芳しくなければ放り出されるような健全な組織を組み上げることが重要なのである。作るべきはジブリブランドの価値をいかに高めるかにしかないのだ。と、書いておきつつも、僕自身はこういう話は全然好きじゃないし、デジタルコンテンツの未来語りに援用されることも好きじゃないのだが。

著者のマイケル・アイズナーさんの凄いところは、ディズニー・ブランドのシナジー効果を利用した世界戦略を屈託なくやっていることだ。どこまでもチャレンジングに、ABCを買収し、ホッケーチームや野球チームを買収し、世界中にディズニーランドを作り続ける(マクドナルドやコカコーラのように)。毎朝ディズニーのラジオを聴きながら出社する彼のディズニーへの愛に、ちょっとだけ恐ろしさも感じる(さらにジブリの「鈴木チーム」にも一発変換できてしまうことも…)。

ちなみに彼は今もディズニーの会長である。そして、ディズニーの存在のありかであった手描きのアニメーション部門を切り捨て、CGアニメに注力する決断もした。もちろんビジネスのための決断だ。そしてファンの僕にとっては悲しい決断でもあった。

現在のディズニーアニメの主軸になっている3Dアニメはディズニーの新しい礎を築けるだろうか? ピクサーの買収はディズニーブランドを食い尽くしたディズニーの「終わりの始まり」としての役割を担っている。

最後に、マイケル・アイズナーさんの言葉で、今のアニメ業界に跋扈する学者や役人にも繋がる文章があったのでちょっとだけ引用。

ディズニー社のような会社の創設者は、大半が独創力のある企業家です。しかし、やがて創設者が亡くなったり放り出されたり、あるいは、ほかの道に進んでいったりする。すると当然、あとは事業の―つまり経営の―専門家が引き受けることになります。独創的なアイディアは持っていませんから、自分の周囲に分析能力のある者や経理の専門家を集めておいて、独創力のある人々を支配し、コストを切り詰めようとします。そうして、変革を目指す動きや新しい独創的なアイディア、再発見をことごとくつぶしていくのです。

いろいろ思い浮かぶ人がいる…以下略。

Posted by Syun Osawa at 00:05