bemod

2006年03月23日

阿片の中国史

譚ろ美/2005年/新潮社/新書

阿片の中国史高校の世界史で習った戦争の中で、トロイ戦争並みに好奇心をそそられた戦争。それが阿片戦争。だって名前にドラッグの名前がついとるんやもん。

相手国をクスリ漬けにして勝つなんて超極悪!(じっさい極悪なんですが…)とか、それを受け入れてクスリ漬けになるなんて超アホ(その側面も否定し難い…)とか、その程度の知識なのはこの本を読んだ後も変わらない。

変わらないどころか、阿片の原料となるケシの花と人間の腐れ縁が、中国の歴史の中にも脈々と息づいていることがモロバレになり、そのどうしようもなさに人間のダメダメな部分を見つけてしまう。

もちろん日本も、清国がクスリ漬けにされたような危険性がなかったわけではない。この本の中では日本がクスリ漬けにされなかった理由として「日米修好通商条約」を挙げている。

神奈川沖に停泊したポーハタン号でハリスと下田奉行の井上清直、目付岩瀬忠震との間で結んだ「日米修好通商条約」の第四条には、「……阿片の輸入厳禁たり。もし亜米利加商船三斥以上を持渡らば、其の過量の品々は日本役人是を取上べし」と、書かれているのだ。

江戸時代は鎖国してたし、その後は怠惰ではいられない怒涛の明治維新へと移行したし、その上で不平等条約ながら上のような内容が条約に盛り込まれたことで、クスリ漬けを免れたのかもしらん。

一方、中国の場合は、秘密結社(マフィア)的な組織がドラッグの売人と官僚を両方担っていて、それこそロシアの石油利権に群がるロシアン・マフィアのごとき根の深さで、構造的に社会がドロドロしたものを受け入れてしまっている。

本の中では青幇と紅幇について紹介されていた。彼らと中国の官僚とのつながりは、ソ連の官僚とマフィアのつながりみたいでとても不気味。戦前の特高とかも怖いけど、もっと根が深いというか、脱出不可能というか。

阿片とマフィアの関係では暗い話が多いが、そんな世界にも映画『トラフィック』(監督:スティーブン・ソダーバーグ/2001年)に出てきたメキシコ州の警官みたいなヤツがいて、それが林則徐。世界史の授業では阿片戦争が起こるきっかけを作った人としか記憶してなかったけど、彼のエピソードは実直で泣かせる。自伝本が読んでみたくなった。

Posted by Syun Osawa at 00:22