bemod

2006年08月27日

悲望(『文学界』7月号)

小谷野敦/2006年/文藝春秋/A5

文学界 2006年8月号小谷野敦さんの処女小説ならぬ童貞小説「悲望」を読んだ。この小説のインパクトが強すぎたために、他の記事は記憶に残っていない。それくらい心に残る小説だった。

この小説に書かれていることはウソなのかホントなのか(ホントだとすれば気の毒な話であるが)、ギャグなのか真剣なのか。何だかよくわからない書きクチが意外に口当たりよく、陰気な小説のような体裁なのに途中何度も笑ってしまうところがあった。ストーカーじみたキモい行動をとり続ける自分を冷静に省みつつも徹底できず、欲望がわずか一歩上回ってしまう感じがよく描かれており、そこがまぁーキモい、キモい。で、笑える。

キモい系文学といえば『ファントム』なるライトノベル誌があるが、ああいう昇華すら許さない感じがさらに生々しい。凡人がこの手の小説を書けば、その生々しさは「結局はルサンチマンで、正直に書けば書くほど悲しくなるだけじゃん」という考え方に行き着いてしまうだろう。しかし、本作を一気に読みきるとこれがどうして悲しくない(むしろ笑える)。これはなかなか発見だった。

篁さんに振られに振られた藤井くんのその後の人生を想像してみよう。

大阪の大学で職を得た彼の次の人生を。もしかすると、それは ここ に書かれてあるかもしれない。もし全部実話だとすると、これは悲劇なのだろうか…それとも喜劇なのだろうか…。実話であればなかなか小説のような人生である。続編に期待。

Posted by Syun Osawa at 00:17