bemod

2006年09月29日

未来少年コナン(全26話)

監督:宮崎駿/1978年/日本/アニメ

未来少年コナン感無量。

まさに冒険活劇。キャラクターが動く動く。リアルな動きの追求とかそういうのではなく、とにかく躍動的に動くんだ。毎回コナンは絶体絶命のピンチに陥る。それでもコナンは最後まで希望を捨てず、勇気でもってピンチを乗り越えてみせる。そうした感情を表現するアニメーションが凄い。

話の内容は以下の感想メモに譲るとして、気になったことを一つだけ。コナンは平和な世界で暮らしていけるだろうか? 彼を突き動かしていたのはおじいさんの遺言か、それともラナへの愛か。そうじゃない気がする。このあたりが、これ以降こうした冒険活劇あまり作られなくなった原因の一つかなとも思う。

「労働」に対する考え方は『千と千尋の神隠し』と同じで一貫している。しかも、ラピュタ前哨戦の作品であるため、マンガ版『風の谷のナウシカ』で見せた思想的展開を経ていない。だからピュアな印象を強く受ける。僕の中でアニメってこれなんだ。『無人間』のデータを丸ごとごみ箱へ捨てたくなった。

第1話 「のこされ島」

なんていう面白さ! 冒頭で世界をサクッと説明してしまう。そこからの物語。コナンのキャラクターを描いて、住んでいる島をさりげなく描いて、そこにラナが登場。早くもインダスとリアの兵士が現われて物語が動き出す。物語がちゃんと機能している。素晴らしすぎる!!

第2話 「旅立ち」

おじいちゃんが死亡。早くも物語の動機が確定し、動き出す。ラナを連れ去った側の人間像も明らかになりつつ、世界観が丁寧に開かれていく。まさに王道。そして最も大切にしなければならないストーリーの重要性をひしひしと感じさせる。それにしても、コナンはあのいかだでよく、海へ出ようと思うよな…。

第3話 「はじめての仲間」

ジムシーとの出会い方が素晴らしすぎる。アニメーションの醍醐味である動きで語ることを全力で表現していて、そこに感銘を受ける。素晴らしすぎて泣きそう。ジムシーがタバコ吸うところとかも含めて、大事なものをいろいろ感じる。一番大事なのは、「勇気」を認め合えるところ。

第4話 「バラクーダ号」

コナンとジムシーが船の乗組員になる。このあたりの儀式がやはり「勇気」を認め合うところに根ざしていて悪い気がしない。アニメーションも素晴らしく、ラナもしっかり印象付けている。物語とはこういうことですな。

第5話 「インダストリア」

コナンがラナを助けにインダストリアの中へ潜入するシーンはまさに冒険活劇! 次から次へとやって来る危機をギリギリのところで回避しながら、最後にはラナとの再開を果たす。今のアニメにないものが全部ある。そして、このシンプルな強さが本当に大事なんだと思う。キャラの造形はもうそこそこでいいや…。

第6話 「ダイスの反逆」

ラナとコナンが捉えられるまでの展開が非常にドラマチック。しかも、その中でしっかりと人間を描いているから、コナンが殺されない理由が視聴者にもはっきりわかる。いろいろな謎がわかりやすい形で提示されている。最後に船長がラナを奪還し(この展開は安易だが…)、コナンとすれ違うところの引きもとても強い。感心させられっぱなしですなぁ。

第7話 「追跡」

船長がラナを奪ったのは、好いているから。この時点でロリっていてなんか妙な気分になる。とはいえ、アクションシーンというかドラマの展開は素晴らしく、あり得ない危機、危機の連続。安易にその危機を乗り越えるシーンも多いとはいえ、昨今の物語にこれほどシンプルに冒険活劇を作る人がいないだけに、この手の手法はぜひとも学び取りたい。ラストもコナンにとって絶体絶命の展開で、それを用意する方法も複線が効いておりとても上手だと思う。

第8話 「逃亡」

超スペクタクルのラナ救出劇。絶体絶命のコナンが運良く救われ、ボートで逃げたはいいが撃墜。さらに海底で脱出不能になる。ラナとコナンのキスシーンがここで劇的に行なわれる。脱出の方法などで、「馬鹿力」というズルさも2度ほど登場したとはいえ、アクションに継ぐアクションが物語をぐいぐい引っ張っており魅了されまくった。トンデモな部分も含めて完璧なプロットだと思う。

第9話 「サルベージ船」

ハッチとデビッド登場。いきなり二人の役どころも明瞭で、彼らの働く場所もわかりやすい。何しろ物語がちゃんとしてる。気骨のあるハッチをインダストリアの人間もコナンも認めるというところは見ていてもとても納得できる。そのあたりは凄いと思う。ファンタジーなんだけど、人間のそれぞれの言動などにちゃんと筋が通っている。感心させられっぱなしですね。

第10話 「ラオ博士」

地殻変動が起こる。ハッチが沈没船の下敷きになったのをコナンが助け、そこでラナはハッチがラオ博士であることを知る。唐突のようでスムーズに受け入れられた。不思議。必ず1話の中にピンチがあって、それが見事に回避される。次回に対する引きも強いし、個々のキャラクターも人間として説得力がある。素晴らしいなぁ、もう。

第11話 「脱出」

すげー! この回まで毎回ピンチにつぐピンチがあるよ。今回も2.5回あった。ラナとコナン、ラオ博士という似たキャラクター3人がそろったときはどうなるかと思ったけど、そこへ上手く船長が加わる。上手い。そして、絶体絶命のピンチが訪れる。何ていう素晴らしい展開なんだ。

第12話 「コアブロック」

三角島からフライングマシンで抜け出すことに成功。この裏側ではコナンが政治犯? を助けてたことが繋がっている。そういう人間のまっとうなドラマも含んだ形で物語が展開していく。ハッピーエンドの形がありがちとかいう批判はもう僕はしない。かくあるべきだと思うからだ。全員無事にハイハーバーへ向うという中盤の盛り上がり。ミッドポイントと言えばよいか。

第13話 「ハイハーバー」

ハイハーバーでの生活が始まる前に、ラオ博士はインダストリアへ戻るという。これは物語をより面白くするための適切な処置だと思う。ハイハーバーにも「山向こう」という考え方があって、辺やヤツがいることが示される。「山向こう」は「川向こう」的な扱われ方をしている用語のように考えるが、この段階では詳細は不明。いずれにせよ島の大きさが絶妙である。

第14話 「島の一日」

ハイハーバーでは、食べ物はむやみに獲ってはいけない。狩猟民族から農耕民族への流れだが、これを丁寧に子どもの目を通じて教えようとしているトコに、このアニメの真摯さがあるといえる。この生真面目さも僕には忘れていた何かを思い出させてくれる。物語の展開としては、これまでと比べてずいぶん弱いものであったが、ジムシーと巨大ブタの追いかけあいという話的には必要の無いアクションシーンを加えることで、物語を楽しいものにしている。

第15話 「荒地」

オーロ達が愚連隊であることがわかる。と、同時に独裁者的な性格を持っていることも。村の若者に「自分の村は自分で守りたい」と言わせているところは興味深い。あと、オーロとコナン&ジプシーが豚のことで一触即発の事態に陥ったとき、それを止めるためにラナはコナンを叩く。豚のことで争わないで欲しいというラナの切実な願いを視聴者に伝えると同時に、ハイハーバーという平和な島でさえも争いは起こるのだという深みのある世界観を提示している。なお、コナンの世界で起こった地殻変動は2008年なのだそうだ。そこで唯一残った残った島がハイハーバーだったと。

第16話 「二人の小屋」

ハイハーバーでオーロ達とコナンのいざこざが発生し、ついにはコナンを殺そうというところまで至る。そこにテラ(オーロの妹)の気持ちがわっと湧き出てドラマが出る。なおかつ船長が悪巧みを考え、さぁ…どうなる? というところで、冒頭のラナの悪夢がインダストリアの船がやってくるという形で現実になる。これまでのような骨太のスペクタクルは無いが、複雑な物語を上手にまとめている。感嘆の言葉以外になし。

第17話 「戦闘」

インダストリアのモンスリーとオーロが密約。船長が街頭で演説し、徹底抗戦を呼びかける。このあたりの人間の描き方がとても好き。階級闘争的といえば言い過ぎか。しかし、現実は上手くいかず、コナンたちの作戦も失敗。もはや絶体絶命のピンチに。ラナが捕まりそうになった時、コナンが猛然と走り寄る。うぉー、大スペクタクル。子どもに仕事をさせるところと、土地を守るということを徹底している。これはラピュタでも千と千尋の神隠しでも見られるが。

第18話 「ガンボート」

コナンがガンボートのラナを救う。爆弾を持って。これまでの回の中で一番強引な展開だったが、それでもコナンの強い意志と勇気に胸を打たれる。ガンボートが沈んだあと、ラナを救う。ラナ野の閉じ込められている部屋が鍵で施錠されていたらどうするつもりだったのかとか、ガンボートが外海に出てから1時間も経過していたら相当に遠くまで行っているのではないかとか、いろいろ思ったが、外海で待機していたからそれはそれでいいのかな。とにかくコナンの勇気とラナを結び付けているものが凄い。

第19話 「大津波」

ハイハーバーに津波がやってきて、それをきっかけにしてモンスリー勢は敗れた感じになった。このあたりも脚本的にはかなり強引だが、コナンが多くの人を無益な争いから開放していることは間違いない。真っ直ぐに生きること、正直に生きること、勇敢に生きることの大事さを教えてくれるとても稀有な作品である。

第20話 「再びインダストリアへ」

モンスリーを徹底的に信じるコナン。そして、モンスリーはコナンたちと行動を共にすることになる。コナンは心配性の病気を持っている。英雄病と名づける。つまり、平和を求める戦いでは多大な力を発揮するが、その後平和が訪れると、また次の戦いを求めてしまう病気。だから、ハイハーバーでは暮らせない。インダストリアへ向いたい気持ちが抑えられない。この辺かな考える必要がある。

第21話 「地下の住民たち」

モンスリーが改心し、銃殺されることに。死んだかどうかは不明。プラスチックと鉄の檻ではなく、緑の中で人間は生きるべきだという主張。ラピュタの成功はコナンをバージョンアップさせたところにあるのだな。完全にコナンは脱出に成功した。しかし、ラストに向って大きな戦いが起ころうとしている。独裁者となった彼の行方とインダストリア、そして地殻変動。まっとうな物語の盛り上がり方。

第22話 「救出」

レプカに捕まるラナ。いよいよクライマックス。ギリギリのところのドラマも相変わらず健在だが、物語の大枠が見えているので、そちらの方にも気持ちが持っていかれる。宮崎駿っていう人は権力者を徹底的に悪人に仕上げている。違う、権力を一人で握ろうとする独裁者を徹底して悪人として仕立てているのだ。最後の地下の人達の蜂起は完全に小林多喜二の『蟹工船』の様相を呈している。

第23話 「太陽塔」

レプカ敗れる。前半戦で凄いスペクタクル。ジャッキーチェンばりのアクションで、ありえないことをやってのけるあのパワフルさがアニメの本当の魅力なんだろうな。26話まであるのに、こんなところでレプカは敗れてもいいのかな? 太陽エネルギーも復活し、人類と機械文明の教訓めいたものが語られる。本来なら、ここで終劇となってもおかしくない。

第24話 「ギガント」

レプカは生きていた。しかもギガントという巨大飛行機で脱出。世界を手中に収めるべく、ハイハーバーへと向う。そこへコナンたちが戦いを挑む。ムチャクチャな展開ながら、真っ直ぐ。ひたすらに真っ直ぐに平和を追い求める。権力者の暴走とトコトン戦うコナンの姿に胸を打たれる。翼の上を走るとか普通にありえないけどさ。凄いよねー。毒ガスのくだりとかも含めて、ピンチとアクションの演出が段違いに凄い。

第25話 「インダストリアの最期」

前半はギガント上での壮絶な戦い。レプカが飛行機に取り残されたときのサイレントとかはラピュタの最後を彷彿とさせる。ラピュタのときは、そこでパズーたちが救われて終わったが、このストーリーはもう少し過酷。

第26話 「大団円」

見事な大団円。最後に残され島が大陸になっていたという事も含めて、サプライズが最後まで確保され視聴者を開きさせない。ラオ博士が死に、これからは新しい世代に委ねられた。悪く言えば、これから退屈な日常が始まるわけだけれども、真っ白なキャンパスが目の前にあって、テーマがハッキリしていて、何をどのように描きたいが明らかな今、目の前には夢と希望が溢れている。現実はそうではない。宮崎駿自身それは十分に理解しているからこそ、この退屈な日常の開始をその後の作品では必ずしも肯定しなかった。違うな。その退屈な日常にいかに夢と希望を描くかを避けたと言っていいかもしれない。こういう作品は今後生まれるだろうか? 僕は今回はっきり思った。生むべきである。

Posted by Syun Osawa at 00:11