bemod

2007年02月23日

鉄の処女

栗本慎一郎/1985年/光文社/新書

鉄の処女80年代半ばに活躍していた日本の思想家を俯瞰した本。著者の栗本さんは、僕の記憶の中では「しゃべりの上手なズラの政治家で、脳梗塞で死の淵をさまよった人」というイメージが強い。この本を出した当時は明治大学の名物教授で、80年代にはバリバリと哲学者の批判などをしていたらしい。

そういうゴーゴーな時代に出された本ということもあって、ものすごく勢いがある。柄谷、蓮實、浅田などのスターを、頭が良くて、スポーツができて、そこそこ男前(男前か?)の筆者が斬って、斬って、斬りまくる。その書き口が芸になっていて、古い時事本にも関わらず楽しんで読むことができた。もっとも、登場する思想家のメンバーが今も大きく変わっていないことも楽しめた一つの要因ではあるが(それはそれで妙に悲しいものがある)。

筆者は、蓮實の映画批評が素晴らしいことを認めたうえで、筆者が好きだった『ハンガリアン狂詩曲』を「くだらん」と一言で片付けたことに以下のような異議を唱えている。

他人が喜んでいる映画や小説を、批評家が「くだらない」と言ってしまったとき、そのことが自然に持つ不当で無根拠な排除性のゆえに、批評の言語は表層で倒錯する以前に死んでしまっているのである。

くやしかったんだろうな…。ということはさておき、この文章は多くのネット批評家を見越したような指摘にもとれて特に印象に残った。と、同時にずいぶん前に買った第二次惑星開発委員会の同人誌『PLANETS』などは、この本の縮小再生産のような雰囲気がある(関係ないけど)。

Posted by Syun Osawa at 23:45