bemod

2008年11月14日

崖の上のポニョ

監督:宮崎駿/2008年/日本/新宿ピカデリー

崖の上のポニョ宮崎駿信者で良かったと思えた作品だった。

彼の子どもへの偏愛っぷりが炸裂していて、その躍動感が他の誰にも追いつけない粋に達していたように思う。僕はこの映画を見ていて、アニメーションのあまりの自由さに何度か泣きそうになった。僕はこの作品を全肯定したい。

最初に登場する宗介の動きでまずやられた。宋介がポニョを見つけて崖を上がっていくシーンで、後ろから波の魔物?である水魚が迫っていてもまったく気づかない。にも関わらずギリギリのところで切り抜けるのだ。こうしたピンチの演出が今回も冴え渡っている。

宋介が嵐の中で一瞬海に投げ出されかけるところを間一髪でリサが捕まえるところなども本当に芸が細かい。過剰なまでのピンチの演出と、そのピンチをいかに切り抜けるかというところで話を引っ張っていくシンプルで強い展開は、宮崎駿の後継世代がやろうとしてもなかなかやれなかった部分なのだ。

また、モブとして描かれる大型タンカーや飛行機のの動くスピードが変だったり、宋介を抱くリサの腕がアップのシーンだけありえないくらい太かったり、とにかく子どもから見た世界として描こうとしている。こういう世界観はよほどの変態でない限り描くことはできないだろう。

僕がこの作品を肯定するのは、彼のピンチの演出と対象に対する偏愛を批評的な自戒なしに炸裂させたところにある。『千と千尋の神隠し』では自戒のほうに涙したが、今回はアニメーションの自由さに涙した。

ストーリーのほうも演繹的で構造的にも練られていないように見える(実際には練っているのだろうが…)。批評を誘発するような帰納法的なストーリーが今のアニメ界を支配している中、「アニメート」することの本来的な意義みたいなものを巨匠自らが作品で語ってくれたような気がして嬉しかった。

Posted by Syun Osawa at 01:23