bemod

2008年11月16日

ジョン・エヴァレット・ミレイ展

2008年8月30日−10月26日/Bunkamuraザ・ミュージアム

ジョン・エヴァレット・ミレイ展混み過ぎ。しかも、Bunkamuraザ・ミュージアムは相変わらず照明暗いし。

ミレイの《オフィーリア》はテート美術館で見ており、今回十年ぶりの再会となった。置かれる場所が変わっても、絵の中の世界は変わらず同じ位相空間を捉えており、恐怖を感じるくらいの静寂と緊張感を漂わせていた。

ミレイのラファエル前派時代の初期作品は、偽物の世界にリアリティを加えるために具象画としての写実性を徹底させている。例えば、《オフィーリア》では死者を取り囲む自然は過剰なまでに描き込まれ、その空間が劇的な場面であることを強く印象付けている。

そう、ミレイの作品はどれも劇的だ。フィルムがない時代に偽史を主題とし、具象画によってそこに真実味を与えることで世紀末の感性を読み込んでいるところに彼の作品の面白さはある。こうした写実性がロマン主義へと受け継がれ、後の社会主義リアリズムへも影響を与えていくところも興味深い。神が死に、その克服として作られた偽史の世界像が、やがて実際の世界でリアリティを持つようになるからだ。

この時代の空気とあわせて考えれば、嘘の世界は具象画で描かれ、本当の世界は抽象画で描かれる時代の分水嶺として彼の作品は位置づけることができるのだと思う。

ところで、ミレイはカリカチュア(挿絵)を多く描いていたことから、漫画や風刺画への興味もあったようだ。カリカチュアは美術館では刺身のつま程度にしか展示されないが、絵画における演出(つまり漫画的な演出)を考える上ではかなり重要なのではないかと思ったりもする。

Posted by Syun Osawa at 00:22