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2009年01月02日

ノエイン もうひとりの君へ(全24話)

監督:赤根和樹/2005−2006年/日本/アニメ

ノエイン もうひとりの君へこの作品の第一回のアニメーションは神掛かっている。大抵の連続モノのアニメはそうなのだが、ノエインは特に良い。それだけに、後半のエンターテイメントの希薄さというか、メタ回路の行き過ぎがちょっと残念だった。

タイムリープを扱う時点ですでに科学ではなくSFなんだから、いちいち量子論とか複雑系を匂わせながら「存在が不確定になること」と「自分探し=セカイ系」の接続に整合性を持たせようとしなくても良かったんではないかと思う。そこが一番見ていて面倒くさかった。

僕は単純にセカイ系を楽しめればよかったのだ。それは世界観だったりその構造設計そのものを楽しみたいということではなく、単純にセカイ系の上で展開されるドラマを楽しみたかっただけなのだ。普通に多くのアニメファンはそうだろう。メタ批評みたいなものを読むのはそれなりに好きだけど、それを先回りして過剰に作品に織り込むと、作品としてはあまり惹かれなくなる。この作品はその典型的な作品だったように思う。

戦闘シーンのいくつかは神回と呼ぶにふさわしいものがあって、そこだけは何度か繰り返し見た。日本のアニメーターは、いついかなる状況であっても良い仕事しますね。

以下、とりとめもない感想メモ。

第01話 アオイユキ

なんというオープニング! 度肝抜かれた! 3Dも上手に使ってるし、演出も細かいし、まだ意味はまったくわからないけど、ともかく面白そうという雰囲気だけは伝わってくる。僕が好きだった工藤晴香(引退らしい)さんの声も小学生の声とまでは言えないまでもわりといい雰囲気を作ってる。似たような声質の声優さんは彼女の世代には大勢いるが、なかでもひときわクリアな感じが好き。

第02話 イエデ

時間の少しずれた並行世界があるらしい。で、ハルカが何かを握っている。竜のトルクというらしいが、この文脈はあっさりとセカイ系なんだろうね。それにしてもユウは暗いな。超暗い。そんなユウの家出にハルカがついて行こうとするところとか何かね…どうなんだよ? って感じ。ただし、前半のバトルは超凄い。そこだけ別格に凄すぎる。

第03話 オワレテ…

バトルシーンがヤバ過ぎる。なんちゅう画面作りだよ…。スピード感あるしレイアウトも大胆だし、本当に凄い。でも内容はまだよくわからんw ロープウェイのところバトルの後で、ハルカがカラス達に捕獲される。それにしても、ユウは本当にウザいなw

第04話 トモダチ

小学生たちのどーでもいい恋愛関係のもつれと、どうしようもないユウという男の苦悩があって、それとは別に並行世界では世界の危機が訪れようとしている。それらの鍵をハルカが握っているらしいことがセカイ系かと思うところなんだけど、今のところ意味がよくわからない。深読みしないとわからないアニメなのだろうか? 3Dで背景を回す技法がやたら多用されている。たしかに違和感が少なく上手にやっている。

第05話 ソレカラ…

サッカーのところとか無駄に動いてるし、相変わらず画面のクオリティがバカ高い。特にカラスとアトレたちとの戦いは3Dとエフェクトの効果も加わって、もの凄い力強さを感じる。ただし、内容はまだよくわからない。ラクリマという世界があること、そこの住人が時空を操っていることもわかるが、どうも上手く飲み込めない。

第06話 ナミダノジクウ

ハルカが連れて来られた世界が15年後の世界であることが明かされた。そしてまた、時空という言葉の意味についても説明が加えられた。別の世界の未来ではなく滅びた未来を救うために過去のハルカを未来に呼び寄せるということをやっている。今回はじめてハルカは別の世界へ移動したのに、なぜだかあまり驚いた様子がない。それどころか、上手く脱出し、地下の世界へたどり着き、そこで仲間を見つけて地上へまで行ってしまった。まだ6話なのに、ここまで物語を急がせた理由はなんなんだろう? これまでわりとゆっくりと物語を進めてきたのに、ここにきて一気に世界設定の説明を行うところはちょっと引っかかった。ともかく、久しぶりのセカイ系作品を観ることになりそう。

第07話 タイセツナヒト

ユウ=カラスは15年後のセカイであるラクリマが滅びたとしてもハルカを守るという。ハルカは竜のトルクそのものであり、彼女がい続ける限りラクリマの存亡の危機は続いていくことになる。この逃げられない円環の中でそれでもハルカを守りたいという自閉的な思い。一方、ユウもウザい。セカイ系はウザいと、このブログでも散々書いていたのに、そういうのを忘れてまたセカイ系見てるわけだからね。セカイ系というかこの手の主人公が苦手なのかな? ただし、カラスというのはユウ以後とも考えることができるので、過去に逃げたトラウマを克服するために今度は何があっても逃げないと言ってるのであれば、そこには何かがあるのかもしれない。

第08話 カクシゴト

これまでのセカイの終わり的な展開が嘘みたいにお気楽モードな展開になった。ミドルポイントである12話に当たりをつけるため、3分の1終了のこの段階で少しだけガス抜きをしたという感じだろうか。カラスとユウが出会い、ハルカは地球(正確にはこのセカイ)に戻ってくる。

第09話 トキヲコエテ

セカイ系作品といったらトラウマは必須アイテム。いじけた根性丸出しのユウがそれを背負っていると思ったら、ユウの母親がトラウマを抱えていた。しかもその理由が結構しょぼい。しょぼいのにハルカはユウの母親を過去の時空へ飛ばしてしまった(はた迷惑な話やなw)。過去との往復によってユウの母親のトラウマは改善、ユウも少しだけ変わった? 今回はやたら3Dが多用されていて、その一方で作画は微妙な仕上がりだった。谷間の時期なのかもしれないね。

第10話 アラシノヨル

カラスが思いっきりハルカの友達たちと会っている。つか全員会いすぎだろw この時点で未来が変わってしまうんじゃねーのか? あと、科学者の話が出てきたけど、科学者ってそもそもああいう態度(地域の安全を無視して実験を強行する態度)を持ち合わせてるのかな? 科学が出てくるわりには、竜騎兵が出しまくるレーザービームがどのようなエネルギーかがまったく不明なところとか、いろいろあるけどともかく筋道が一本になりつつある感じ。つーか、漠然としてんだよねこの話。

第11話 スレチガイ

量子物理学の話が延々と続くが、それでもテレポーテーションの話と時空を超える話(要するにタイムスリップする話)の説得力は貰えず。異常なのに微温的な日常生活が続いているので、急速に興味を失いつつある。世界が終わった15年後の世界からやってきた人との話ということは、現段階でこれから起きる危機は世界の終わりなわけで、そこはもうちょっと盛り上げて欲しいな。二人の語りでその当たり(世界の終わり)に整合性を持たせようとしているところもあまり好きじゃない。ハルカが黛(まゆずみ)博士の子どもだとわかる。

第12話 タタカイ

何かもの凄い回だった。作画がヤバい。りょーちも、松本憲生、うつのみや理とかいて納得。動きまくるんだけど、崩れてる絵も山ほどあって、ともかく凄い回だった。ミドルポイントに印象の強いものをもってくるという、シナリオの王道をやっている。竜騎兵の二人が死亡。一つわかったのは、時空を感じることができるのはハルカだけ。そして、この時空のハルカも竜騎兵たちがいる15年後の世界のハルカもつながっている。そう信じているのがカラスの存在だ。しかしそれは、カラスが勝手に信じているに過ぎない。

第13話 ネガイ

話の展開がおっさんにはちょっと難しい。アトリが生きていたが、キャラクターが変わっていた。みんなカラスを生き返らそうとしている。ハルカが並行世界の住人にとって重要だっていうわりには、扱いがなんか適当だし、竜騎兵自体も人間なのかそうじゃないのかもわからないし、人間関係のベクトルがなかなか複雑。カラスの「この時空のハルカは俺が守る」というのもちょっとわからない。逆に考えれば、別の時空にもハルカがいるということなのか? そうであれば、この時空とやらを選択した根拠ってなんなんだろう?

第14話 キオク

正直なんなの? この展開? ハルカの家にアトリとかも上がりこんで、カラスもいたりで普通にまったりと生活している。超常現象を普通にみんな当たり前のこととして受け入れてるし…。第一話の超絶感はどこへ行ったんだよう…。ともかく、ハルカはいろんな時空を行ったりきたりするようになって、父と母の出会いのシーンなどを見たりする。そして最後に、どこかの時空の自分の声を聴くことになる。そこで「ユウを助けてあげてください」という言葉を聞き、ユウへの思いを再発見するという構造ですな。結局セカイ系やんけ! まぁ…わかってたんだけど、超常現象のほうをもうちょっと1話みたいにちゃんとやって欲しいよ。

第15話 シャングリラ

ハルカが山の上の展望台で父親と再開。刑事とカラスのシーンとかちょっと安いなぁ。あと、量子とか何やねんな…。仮面の男(ノエイン)が出てきたあたりから面白くなってきた。この作品はストーリーよりもアクションシーンが冴えてるな。ともかく、みんながハルカを取り合っているという不思議な話。しかもそれは並行世界(15年後の世界)での問題で、今の世界ではほとんど変化のない毎日が繰り返されている。ユウは相変わらずウザい。

第16話 クリカエシ

第一話と同じシーンが繰り返された回。ところが、この時空にはカラスが登場しない。うーん。ぶっちゃけ時空というものがよくわからないから、ループの話もすんなり受け取れない。話がややこしくて、それをややこしいままにやっているから、僕のような素人にはハードルの高い作品になっている。もう少し見通しを立てて、話の焦点を絞ったほうがいいと思う。少なくとも時空については、企画段階からもう少し詰めるべきだったんじゃないだろうか?

第17話 マヨイ

超絶回。ただし、アクションシーンのみですが。とはいえ、こういう映像の凄さを見せ付ける回がたまにあるのがノエインのいいところなわけですな。カラスとコサギの戦いは面白かったが、いわゆる愛の問題と世界の存亡の問題以外のものを完全に排除していて、その系を地球のある時空とラクリマの二つで同時にやってるからぼやけた印象はぬぐえない。だって、別の時空もあって、そこにもハルカだっているわけだし…。

第18話 ワルイユメ

「幻の夢の時空」って何だよ…衒学趣味も大概にせいよ…って感じですね。「虚数で作られた世界」とか「可能性の未来」とかもよくわからん。そういうのに惑わされず、主題を普通に楽しめばいいっていうまともな結論がセカイ系なんだということはわかってはいるものの、最近ソーカルの『「知」の欺瞞』を読んだこともあって余計にそんなイライラが募ってしまった。

第19話 オモイデ

一気に、最初の世界で起きていた事件の開陳をやっているんだけど、ぶっちゃけ面白くない。メタ的な世界観でいわゆるポストセカイ系のような試みをしているんだということはわかる。そういう目で見れば面白いのかもしれない。でもドラマがなさ過ぎ。つか、ドラマをちゃんとまとめて流して欲しい。散漫すぎて乗り切れない。そのくせ、やたらと一部の動画だけよかったりするからなぁ…ほんと不思議なアニメ。

第20話 モウイチド…

科学と哲学というテーマはいいと思う。ただ、衒学趣味が強すぎて意味不明すぎる。15年後の世界があんな状態になるとは思えないし(特に科学技術が)、並行世界とかユートピアとかを量子論の曖昧さだけを取り出して説得力を与えようとするところとかについても、試みの新しさは評価できるけど腑に落ちないところが多すぎてストレスがたまる。どうでもいい話だが、ノエインって靉光の《眼のある風景》を連想させるな。

第21話 マボロシ

シャングリラももう一つの可能性としての未来。カラスとユウがいるから、ハルカもここにいるという話は、揺らぎ続ける世界で確かなものを何に求めるかという問いを僕たちに投げかける。ようするに「僕にとってあなたがすべてで、あなたにとって僕がすべて。それが世界のすべてだよ。」という話(セカイ系)なわけだけど、それだけ過ぎて掴みどころがない。もう少しストーリーの部分で面白く見たいのに…。不確定な世界と未来の可能性を難しく示して、その中でどう価値を見出すか?ってことについて教条主義的な思いばかりを口にしてたんじゃあしょうがないという気もする。とりあえず、未来のハルカは死ぬらしい。

第22話 ミライヘ…

この作品は現在と未来をつなぐある切断面(実験の失敗)へ向かうストーリーを軸につくられている。そのため、作品は二重性を帯びており、一方は過去(小学生時代)から切断面へ向かう。そしてもう一方は未来(ラクリマとシャングリラ)から切断面へ向かっている。ハルカはそのつなぎめ役になっている。そのため、過去の物語は友達が小学校から高校へ移るにつれて、不良になったり虐めにあったりという日常風景が描かれ、未来の物語は世界の存亡をかけた戦いが描かれている。…ま、ようするにセカイ系ですな。セカイ系の風呂敷を大きくしたのはいいが、あと2話しかないのに作品自体が散漫で、それぞれの小さな物語のベクトルが大きなほうへと回収されていない。エンターテイメントとは、それらをいかに結びつけ、大きな物語を演出できるかが鍵だと思うので(古い発想ではあるが)、クライマックスへ向けての下準備はちゃんとやるべきだったのではないだろうか。

第23話 オワリ

ノエインも未来のユウだった。正確には別の時空のユウ。ノエインはハルカや友人を交通事故で失うという時空を生き、その深い悲しみからノエインとなり時空をさまようようになった。ところが、ほかの時空に行ってもハルカはいない。つまりどの選択肢を選んだとしてもバッドエンドであることを知ってしまったのだ。だからノエインは、選択肢を選びなおすという選択を捨てて、このゲーム(つまり時空)すべてを収束させて無にしてしまうことを決めたのだ。この回でかなりの部分が明るみになったが、構造的な時空の考え方と、実際にユウやハルカたちが生きている時間軸の関わりが曖昧なために、なんかボヤッとしてしまって面白さが半減してしまっているような気がする。あと一回で終わり。長かった。

第24話 ハジマリ

いくつもの未来に分岐していく不確定な世界において、私達はどこで自分自身の存在を確定するのだろうか? という、まぁ…実存の話だったり自分探しの話だったりするわけですな。で、お互いを認識できれば人は人を確定できるという流れ。他者がいて初めて人は自分の存在を認識できるというヤツですな。時空の重ね合わせとか、もうようわかりませんが、とにかく当初の目的であった世界の崩壊は免れて、カラスとノエインの対決もそれなりの決着がついた。そして、最初のところ(つまりユウとハルカがいた場所)に戻って、それを肯定するわけですな。メタ回路でアニメを作るとこうなるという一つのモデルとして記憶しておくにとどめておくことにしよう。

Posted by Syun Osawa at 00:41