2009年05月22日
やんちゃな独創 ― 糸川英夫伝
的川泰宣/2004年/日刊工業新聞社/四六
ニコニコ生放送のホリエモンとひろゆきの対談で、ホリエモンが糸川英夫の話をしていたので読んでみた。情けないことに僕は名前すら知らなかった。
この本に書かれる糸川のキャリアは大変ユニークだ。東京帝大を卒業した後、戦闘機の設計→ミサイルの研究→音響学の研究→ロケット開発→創造性組織工学研究所(シンクタンク)創設と、様々な分野にチャレンジし、しかもそのすべてにおいて多くの偉業を成し遂げている。
華々しいキャリアもさることながら、戦闘機の開発からキャリアを始めたにも関わらず、終戦後にそのキャリアとは無関係の音響の世界に躊躇無くすすめるところが、僕は一番素晴らしいと思う。彼はほとんど過去を引きずらない。音響学の世界で博士号を取得した後にも、再びロケット開発の世界に戻っているし、ロケット開発で多くの名声を得た後も名誉職に甘んじることなく、サラリと大学を去ってシンクタンクを創設している。
ひたすら目標設定を重視し、合理的に行動し続けた糸川だが、日本人の特性である「情緒」を重視していたのは興味深い。つまり、彼は日本人のそうした情緒の論理(未来型の議論が苦手という意味ではある種の弱さ?)も踏まえた上で、目標達成のための行動を最大化しようと考えていたのだ。前進し続ける情熱と状況を見通せる冷静さ。うーむ。とんでもない人が日本にもいたんだな。
『エヴァンゲリオン』ブーム以降というか、失われた90年代というか、そういうものを通過している僕などは、すぐに言い訳のためのトラウマを過去に探してしまう傾向がある。グジグジと過去を引きずって、自分への免罪符を与えているのだ。
糸川はそんなことは考えない。ひたすら前に前に突き進んでいる。才能のなせる業といえばそれまでだが、考え方のレベルで学ぶべきところが非常に多かった。
Posted by Syun Osawa at 00:23