bemod

2009年06月11日

ボックス!

百田尚樹/2008年/太田出版/四六

ボックス!久しぶりに読んだ小説が、こんなにも爽やかな小説で僕は嬉しいw 小説に登場する天才ボクサー鏑矢のように、突然訪れたかと思えば、スッと吹き抜けて消えてしまう、まさに風のような小説だった。

もともとスポーツ漫画が大好きなので、スポーツ小説でしかもボクシングネタとなれば、それなりに楽しめるだろうとは予想していた。ただ妙に技巧的であったり、ボクシングを刺身のつま程度のものとして扱われていたら嫌だな…という危惧もあった。普段小説を読まないこともあって、作品を構造的にうんぬんするようなメタ要素の強い作品はちょっと苦手だから。この作品はそういう意味では僕の期待に完璧に応えてくれている。そして、いい意味で最初の予想を超えてくれた。

ストーリーの大枠はかなりベタなネタが満載。そのベタさ加減が心地よく、学生時代のクラブのことなんかが思い出されたりして、読んでる途中でかなり涙腺がヤバいときがあった。そんなベタストーリーながら、ストーリーを盛り上げるための細部はかなり丁寧に作りこまれている演出もにくい。主人公の木樽が私立に通う奨学金免除の特待生だったり、鏑矢が中学からジムに通っていたから1年から試合に出れたり、あと階級がライト級ってのも何気に上手いと思う。

そして、その細やかな設定の上でキャラクターが走る走る。この走り方がまさに演繹的で、『スラムダンク』を読んでいるときのような興奮に押されてページが進む進むw 予定調和的に一つのベクトルに話が向かっているというよりも、それぞれのキャラクターがまるで生きているかのように動き、そしてその動きの交錯したまさにその場所でドラマが生まれているような、そんな感じがした。

こういうドラマの生まれ方は連載形式の漫画に似てる。僕がこの本をサクサク読めたのはそういう漫画っぽさからきているのかも。漫画っぽいというか、ライトノベルっぽいというか、そのへんはまぁ…何でもいいんだけど、ともかくキャラクターへのスポットライトの当て方が非常に巧みで、特に丸山のキャラクターの配置が上手かった。彼女が他のキャラクターと関わることで、それぞれのキャラの動きを豊かにしている。丸山みたいな悲しい状況に立たされている人が強く生きるというのも王道なんだけど、作品全体がギュッと引き締まるので、ああいうのいいね。

この本の印象から著者はきっと若いのだろうと思っていたら、結構いい年齢の人だった。しかも『探偵ナイトスクープ』の放送作家ということにも二重の驚き。小説家としてのデビューはかなり遅いようだ。創作への意欲っていうのは若い人だけの特権ではないんですね。

Posted by Syun Osawa at 00:26