bemod

2010年01月26日

どとーの愛

小林よしのり/1995年/徳間書店/文庫

どとーの愛『スーパージャンプ』で発表された作品が、なぜ集英社ではなく徳間書店で文庫化されているのだろう? この作品が発表された1992年という年は、『週刊SPA!』に「ゴーマニズム宣言」が発表された年と重なる。そのせいか、オウム真理教をパロッたシーンが何箇所か出てきたり、主人公が読者に向かって(著者の)主張を堂々と述べるシーンなどが出てくるなど、後の思想家としての一面がちょっとだけ垣間見える作品になっていた。

とはいえ、恋愛ギャグ漫画である。

そして、「ゴー宣」的な文脈を抜きにしても、普通に面白いw 手塚治虫が言うところの演繹的な手法でストーリーが進んでおり、キャラクターが目の前の事象に七転八倒しながらギャグを繰り広げていく。まさにギャグ漫画の王道と言えるような内容だった。軽いギャグとして登場した唇のネタを、中盤に引っ張り続けるところとかもかなり面白かった。

キャラクターの造形もいちいち人間臭く描かれており、貧乏人がどこまでも貪欲だったり、愚かだったり、人として弱かったりするところが、ギャグを通して浮き上がっている。そして、どこまでもくだらないw

小林よしのり氏はやっぱりギャグ漫画家なのだ。彼が90年代半ばから思想方面でかなり大きな影響力を持ったのは、彼の思想の魅力もさることながら、ギャグで語れるエンターテイメント力の高さが多くの人の心を鷲づかみにしたからだろう。本作が予想以上に面白かったので、小林作品について、次はいよいよ『戦争論』を読んでみようと思う。

Posted by Syun Osawa at 01:14