bemod

2010年03月04日

老人賭博

松尾スズキ/2010年/文藝春秋/四六判

老人賭博芥川賞の候補作になってちょっと目立っていたこととか、ページ数が少なそうだったこととか、目の前にたまたまあったとか、そういうことがいろいろ重なって読むことになった。大人計画周辺を全スルーしていた僕の、初の松尾スズキ体験である。

ぶっちゃけ、まじぐだ(「マジでぐだぐだ」の略)だった。冒頭で冴えない主人公が整形して男前になったので、山田玲司の『Bバージン』のような流れなのかと思ったら、整形に関するビフォー・アフターで話を引っ張るという風でもなかった(冷めた独白の根拠になっていたのかもしれないが)。

で、「その掴みは何だったんだ?」と思っているうちに、話はぐいぐい展開していって、いつの間にか整体師が映画関係者に。こういう行き当たりばったり風に進む演繹的なストーリー展開は結構好き。しかも、ところどころ挿入されているギャグが結構面白くて、例えば30代の男がバク転するとバカに見えるというくだりは、かなり笑った。バク転した男のキャラクターの立たせ方とか、その後の崩しかたとか、笑わせるための持って行きかたとか、さすがだなと思うところがちょくちょくあった(ほんとちょっとしたところが面白のよw)。

そんな風に微笑ましく読んでいたのは前半まで。後半はギャグの冴えもなくなり、ストーリーの山場となる賭けのくだりも微妙で、最初に書いたようにぐだぐだになっていった。この小説の後半の盛り上げかたって、もしかしたら映画だったらそれなりになったのかもしれない。映像があって、役者さんが面白く演じれば、「わいわいがやがや」した場の雰囲気なんかもよく出ただろうし、小関がNGを連発するくだりも、だんカット割が細かくなり、前半に作り上げたキャラクター達がどんどん交差していくという展開で盛り上がったことだろう。

でもこれは小説なのだ。文章をただ追っている身としては、そうした映像で生える部分より、主演のベテラン俳優・小関がグラビアアイドル・海に手渡した手紙の中身のほうが気になるのである。普通のライトコメディなら、そこに書かれた手紙の内容はベタに泣かせどころのはずで、僕もそれを期待していただけに残念だった。ただ、そうしなかったところが松尾クオリティということなのかもしれないが…。

Posted by Syun Osawa at 00:32