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2010年04月02日

ベーシック・インカム入門

山森亮/2009年/光文社/新書

ベーシック・インカム入門最近、いろいろな場所で語られているベーシック・インカムについて、Wikipeidaよりも少し踏み込んだことが知りたいと思って読んだ本。入門と書かれているわりは、専門用語がポンポンと出てきて、ちょっと堅苦しい感じだった。

この本によると、「ベーシック・インカム」という言葉で名指されていたかどうかは別として、似たような制度を考えていた人は古くからいたようだ。しかし、多くの場合、あまり大きな話題になることもなく立ち消えになった。その理由は様々だが、ザックリ言ってしまえば、これまでは産業が右肩上がりに発展し続けていたたため、ベーシック・インカムをわざわざ持ち込まなくても、働けば何とか生活が向上するという神話が成立していた。そのため、多くの人がこのシンプルな保障制度に目を向けなかったのだ。

これからの社会では、産業が今までのように発展して、それが僕たちの生活をどんどん向上していくとは考えにくい。情報産業分野ではフリー化、デジタル化の余波を受けて、人余りがより一層進んでいる。加えて、日本では高齢化が進み、デフレを克服することもかなり難しい状況にある。そんな中で、セーフティーネットを考えるとき、今までのような生活保護政策では、生活保護を受けられない低所得者層から不満が噴出するであろうことも十分に予想できる。

これは明らかにお門違いな不満なのだが、そうであってもこの不満が日に日に大きくなっているということには留意しておく必要があるだろう。在特会の運動が活発化していることも、こうした流れとは無縁ではない。

ベーシック・インカムはこれらの諸問題を何一つ解決するわけではない。しかし確実に「不公平感」だけはなくなる。この見えにくい感情の問題をガス抜きするためにも、ベーシック・インカム的なシンプルでわかりやすい政策が今後必要になってくることは、多くの人が感じているところだと思う。

ただ、そうなると、生活保護受給者の収入は確実に下がることになる。この点についてはこの本では扱われていなかったが、本来なら最も社会的弱者に位置する人たちが、現在の保護政策によってフリーターよりもいい生活をしているという転倒が、さらに転倒して、本来の意味で社会的弱者に陥ってしまう。果たしてこれでいいのだろうか? このあたりは僕にはわからない。

また、生きているだけで支払われるベーシック・インカムは、労働の意味を大きく変えてしまうので、この思想の変革にはかなり大きな障壁があると予想される。昔は、オール機械化されて人間が労働から解放されることは素晴らしいことだと言われていたはずなので、いよいよそんな社会に近づいてきた今、「働かざるもの食うべからず」といった強い主張をどう切り崩していくかが、ベーシック・インカム実現の大きな鍵となるのだろうね。

Posted by Syun Osawa at 00:53