bemod

2010年11月17日

重力ピエロ

伊坂幸太郎/2006年/新潮社/文庫

重力ピエロ実家に帰ったときに母親がくれた本。伊坂幸太郎が人気なのは知っていたが、まさか母親までハマっているとは思わなかった。僕は小説をほとんど読まないので詳しくはわからないのだが、普通の小説にちょっとミステリのエッセンスを加えた感じのこの手の小説は、ゼロ年代のかなり中心的なジャンル帯を形成していたのかもしれない。

以下、ややネタバレ含みます。

まぁ、ネタバレって言ったところで、途中から話はほとんど見えている。その半分見えているオチまでどのようにドラマを展開させるのかってところがこの話の妙だったりするわけだ。本書は細かいショートエピソードがパッチワーク状につなぎ合わされながら、少しずつ謎が解かれ、物語が進んでいく。そのジグザグな物語の進み方が、単純な犯人探しのミステリとは違うところに主軸を置いていて、そのバランスの取り方がなかなか素敵だった。

物語の主人公は仙台に住む20代の男兄弟。その母親は他界しており、父親は癌で入院中している。弟は過去に母親がレイプされてできた子どもで、癌で入院中の父親の子ではない。物語は弟が母親をレイプした男(つまり自分の本当の父親)を見つけだし、殺すことで終焉を迎える。その過程で繰り返し問われるのは、「家族とは何か?」ということだったように思う。

この問いについて、兄は何度も何度も考え続けるが、最後の最後までそれに対する明確な答えを得てはいない。しかし、この兄弟と父親は最後の最後まで家族としての振る舞いを崩すことは一切無かった。上で軽率に弟が殺した相手を「弟の本当の父親」と書いてしまったが、それは違うのかもしれない。兄弟の本当の父親は癌で死んだあの父親しかいないのだ。

今回、伊坂幸太郎の小説を初体験。悪くない。ただ一点だけ気になるところがあった。それは、春を追いかけ続けたストーカーの心理だ。最近、耳かき裁判の傍聴に行ったりしたこともあって、ストーカーについてぼんやり考えていたのだが、僕の考えるストーカー像と、この小説に出てくるストーカーがどうにも違うのだ。

この小説に出てくるストーカーはあまりにも自己言及的過ぎる。自分のことをストーカーと自覚してしまっており、その自覚の上で行動している。問題はこの行動が、ストーリーを展開される重要な役割を担っている点で、物語のつなぎ目を都合よくつなぐためのキャラクターとして配置されたように見えてしまったのがやや残念だった。ミステリー仕立てだから、そういうところは仕方ないのかもしれないけど。

ともかく、ファーストコンタクトは上々。サクッと次作品も読んでみよう。

Posted by Syun Osawa at 23:22