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2010年12月01日

公開講座「鉄腕アトムがTVで飛ぶまで」

2010年11月6日/13:30−15:30/東京工芸大学

山村浩二氏がやっている東京藝大の神イベントほどではないが、近所でやっていて(しかも無料)、アニメ関連の話を聞かせてくれる大変ありがたい公開講座。

今回の講師は陶山恵氏で、戦前のアニメから東映の初期の短編あたりまでの流れを辿りながら、作品をいくつか上映するといった内容だった。有名な作品をザッと紹介するといった感じだったので、市川崑監督の「新説カチカチ山」や政岡憲三監督の「くもとちゅうりっぷ」などすでに見たことのあるものも含まれていたが、初めて見た作品もあって、なかなかお得な感じだった。

そういえば、少し前に「日本のアニメクラシックコレクション」というDVDを買ったのだが、アレに入っているらしい。DVDも買うだけ買って見てないものが大量にあって、こちらも見ないといけない。

それはさておき、上映された作品の中でピンッときたものをいくつか。まずは、西倉喜代治監督の「茶目子の一日」という作品。これは1931年と日本ではかなり初期に作られたアニメーションだ。場面転換にクロスフェードや暗転などを使っていたり、横スクロールでは人物の前にポストを流すなど多重スクロールの意識も強い。この時期には海外の短編はかなりレベルが高かったはずなので、そうしたことも影響しているのだろうか。

アメリカではこの時期、ディズニーの活躍などもあってアニメーションのレベルが相当高かった。それに呼応するように、日本でもかなり質の高いアニメーションを作ろうとしていたことがわかる。1946年公開の政岡憲三監督による「桜(春の幻想)」などは、戦前の日本のアニメーションが15年かけて積み上げてきた経験値を発揮しまくったかなり高度な作品に仕上がっていたと思う。

このレベルの高さは初期の東映動画のアニメにも見ることができる。1957年公開の藪下泰次監督による「こねこのらくがき」は、フルアニメーションの力量をまざまざと見せ付けている。今のアニメようにエフェクトや描き方などによる派手な演出効果はないが、登場するキャラクターたちがとても細やかに動いていて、当時の贅沢なアニメの作られ方にただただ感心させられた。

よーするに、手塚治虫がリミテッド・アニメーションで「鉄腕アトム」をやる前のアニメと、それ以降の商業アニメではそこにある思想が何かちょっと違うわけだ。スタジオジブリなどは東映(というか森やすじの?)の遺伝子を受け継いでいるが、ああいう大掛かりな作品を作ってペイできるスタジオはジブリ以外には存在しない。

損益分岐点を考えると、作画枚数を減らさざるを得ないなど、いろいろ無理のある状況でアニメ業界というのは成り立っているのである。それが良いとか悪いというのではなく、足し算で作られる作品(戦前のアニメ)と引き算で作られる作品(戦後の商業アニメ)の間にある溝をどう考えればいいんだろう? と思っていたところで講座が終わった。これは考えれば何か面白いことがパッと思い浮かぶのかもしれないが、今は何も浮かんでこない。でも、この溝は、アニメについて考える上では避けて通れない溝であるような気がしている。何となく。

Posted by Syun Osawa at 01:31