bemod

2011年02月01日

アウトレットブルース

川村勝/2007年/ぴあ/四六

アウトレットブルース中学生の頃に喧嘩でブイブイいわせてた不良が、ヤクザになり、刑務所へ行き、更生し、組を抜け、大学へ行き、ライターになった半生を描いたノンフィクション。

何のきっかけでこの本を読み始めたのかははっきり覚えていないが、たしか2ちゃんねるのアウトロー板あたりを巡っていたときに、「井上雄彦の『リアル』にそっくりなノンフィクション本がある」という書き込みをみつけて読んでみたくなったんだと思う。

読んでみると、たしかに『リアル』によく似ている。ヤクザをやっていた川村氏が組を抜けて堅気になるというストーリーと、同じ時期に事故で片足を失った川村の友人が失意の中で車椅子バスケットに出会い、希望を持って生きていくというストーリーの併走感がとても『リアル』っぽい。しかも、ノンフィクションだけあって『リアル』よりリアルだ。

そのリアルさは、たんにノンフィクションだからという理由にとどまらない。昔からよくある不良の更生本にありがちな、よく出来たストーリーに自分自身を重ね合わせていない点でもリアルだった。本の最後のほうで著者自身が書いているとおり、堅気になってから何かを成し遂げたということはないし、車椅子バスケットでオリンピックを目指していた友人もオリンピックに行っていない。もちろん、大検に受かって大学へ行ったというのは、成し遂げた何かに相当するものには間違いないのだが、著者はその部分を大きくクローズアップさせていないのである。

ここからはあくまでも想像だが、もしもこの本を書いている段階で、友人がオリンピックに行ったとしても、著者はそのことを成功体験の一番の盛り上がりとして書いていなかったのではないだろうか。著者は大学合格といった社会にあらかじめ用意された成功体験の装置に対しては、どこか冷めた視線を送っているように思えた。

むしろ彼が大事にしているのは、心の部分なのだろう。この作品には彼の友人が数多く登場し、その友人達との出会いのエピソードが数多く紹介されている。仲良くなった例だけではなく、人間関係が上手くいかなかった例も含めて、人とのつながりの面をこの本では強調しているように思えた。この本の大枠は井上雄彦の『リアル』に似通っているが、この作品のほうがよりリアルなのは、社会における成功体験よりも人間同士の関わりに力点が置かれていたからだろう。

話は少し変わるが、著者は真っ当な家庭で育ったようだ。不良になる可能性は誰にでもあるが、そこから更生するかしないかには、親の家庭状況が大きく影響しているといわれている。この本を読んでいても、著者の親は最後まで息子を見放さなかった。子どもの教育においては過保護かどうかということがまず問われる傾向が強いが、むしろ子どもを最後まで見放すか見放さないかということのほうが、長い人生においてははるかに重要なのだ。見放していないからこそ、荒くた子どもたちの生活も、波の減衰のように少しずつ穏やかになり、やがてあるべき所へおさまっていくのだろう。

Posted by Syun Osawa at 01:18