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2012年05月10日

第4回 講座・貸本マンガの時代

2011年12月11日/14:00−16:00/森下文化センター

この講座の最終回となる第4回のテーマは「貸本マンガの世界〜貸本マンガから週刊誌へ」。ゲスト講師は川崎のぼる先生とビッグ錠先生。超大物!

お二人が若手時代(同時に貸本マンガ時代)にいかにマンガ家として食っていたかというエピソードが面白かった。東京の大手出版社と大阪の貸本出版社では明確なヒエラルキーがあり、支給される原稿料は少なかったことはよく知られている。貸本マンガがプチブームになったことでたくさんの単行本が作られるようになったが、その際、原稿料が印税ではなく現金で支払われていたそうだ。そのため、大阪時代には食いつなぐためにマンガをひたすら描くという生活がデフォルトだった。

当時は模写やパクリに対する罪の意識も希薄で、一人の作家が様々なジャンルや画風の作品を手がけていることは珍しくなかった。さらに生活費として現金を手にするために早描きする必要もあった。そのことが、結果としてマンガや作家の幅を広げ、クオリティの底上げに貢献していることは間違いないだろう。

マンガ市場はその後大きく発展し、出版界の中でも収益の中心になっていく。マンガ家たちのジャンルを問わない大量生産と産業の拡大により、文化的地位も上昇し、マンガ家の位置づけも少しずつ変化した。いま僕たちが描くマンガ家像はこのような変化の過程で見えている一つの像なのだろう。

ところで、音楽業界がインターネットの登場により危機的状況に陥っている。

その原因は違法ダウンロードのにあると思われるが、それと同時にボーカロイドの曲のように無料で公開されている曲も含めてリリースされる曲があまりにも多いことも原因の一つになっているようだ。おそらくこれによりミュージシャンの収入は減っていき、それに伴い社会的地位も下がっていくことになる。僕が小さい頃に見ていたミュージシャンと、これから登場するミュージシャンではその見え方が異なるはずだ。これは産業構造の変化によってもたらされている事態である。

まとまりのない感想文をダラダラと書いてしまったが、何が書きたかったかというと、マンガの黎明期は大量に作品が生み出されることによって作品のクオリティが底上げされ、結果として市場の拡大につながった。しかし、音楽市場を見ていると作品の多産が市場の拡大とがリンクしていない。

つまり、多くの作品が生み出されることと、それによって市場が活性化することはイコールではなく、産業構造そのものが市場を支えマンガ家の社会的地位を決定していたのではないか(当たり前かもしれないが)。だから、川崎先生やビッグ先生が若手だった頃のマンガ市場が持っていた流動性が今の漫画界にも求められているのではないか。なぜなら産業構造が固化しているからだ。と、そのようなことが書きたかったのだ。

音楽産業にはCD販売のほかにライブによる収入があり、こちらの産業構造によってミュージシャンの地位は確保される可能性があるが、マンガ家の場合はそういう一回性の経験を提供する場所が極めて少ない。電子書籍の登場でマンガ産業も音楽産業の後追いを始める可能性があるいま、マンガ界に必要なのは作家性を追い求めて作品の質を高めることではなく、食えるための構造をもう一度生み出し、みんなでそこへワラワラと乗っかっていくことなのだと思う。

Posted by Syun Osawa at 01:29