2012年06月03日
大局観 自分と闘って負けない心
羽生善治/2011年/角川書店/新書
将棋の天才・羽生義治さんの『決断力』を読もうと思って書店に行ったら、新しい本が出ていたのでこちらを読むことに。将棋の勝負どころで、複数ある選択肢の中からいかにして一つを選ぶか。こういう難問に対して羽生さんの考えを披露した本だった。
面白かったのは、経験を単純なデータベースの充実と考えていないところだ。若い頃にあったパワフルな頭の回転は歳を追うごとに失われていく。しかし、多くの対局の経験で養われた(というか体にしみついた)感覚は残っていて、その感覚が勝負どころでちゃんと機能するのだ。
もちろんこれは誰でもそうだということではないだろう、プロ野球選手でもベテランになってからも技巧はとなつてそれなりに成績を残す選手がいるが、大抵の人は能力が落ちてそのまま引退していく。これを才能ゆえだと結論付けるのは簡単だが、僕のような下々の人間への教訓として、日々の努力の積み重ねによる成果だと捉えなおすことも可能だろう。
羽生さんは常に自分と向き合っている。これはなかなかできることではない。サラリーマンをやっていると、歳を追うごとに社内的な政治に巻き込まれるなど、様々な人間関係の中で相対的に何かを成し遂げようとする。これはある意味仕方のないことではある。しかしこれが行き過ぎると、周りへの目配りが効き過ぎてしまい、勝負どころで自分の力で何かを決断することが極めて難しくなる。
もちろん、サラリーマンの日常生活はプロ棋士の真剣勝負とは別ステージなのでこれを単純比較することはできない。ただ、コミュニケーションによる解決ばかりを重要視し、自分で考えるということを怠ってしまえば、おそらくこの本のタイトルになっている大局観というような視点は絶対に出てこないのだと思う。
Posted by Syun Osawa at 23:56