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2013年07月11日

ヤクザと原発 福島第一潜入記

鈴木智彦/2011年/文藝春秋/四六

ヤクザと原発 福島第一潜入記東日本大震災によって起きた福島第二原発所の事故の復旧作業のために多くの民間人が投入されている。現場は放射能汚染が深刻で、そこで働く人には生死に関わるリスクがつきまとうため、支払われる金額が平常時よりも高額に設定されている。そこにヤクザが目をつけて介入しているという話。著者自身も現場で復旧作業を行っているため、書かれている文章には生々しさがあった。

本のタイトルはヤクザと原発となっているが、これは著者がヤクザ関連の記事をよく書いているライターだからで、実際には紙面の多くは原発の復旧作業のレポートに当てられている。これを読むと、現場の作業員が放射能のことについて詳しい知識を持たないまま作業していることがわかって怖くなった。しかも末端の作業員はそれほど高くない金額で働いていることにも驚かされた。

あと、作業中に死亡する人の多くは放射線を浴びたことが原因ではなく、炎天下のもとで密閉された防護服で働くことによる熱中症が原因だそうな。僕の会社の同僚にも元原発職員がいて、その人も防護服は服と手袋やマスクなどの接続部をガムテープでぐるぐる巻きにするために息がとても苦しいと話していた。そのため、その苦しさに耐えられずガムテープを緩めて空気が入りやすくする人もかなりいたとのことだった。

僕はこの本を読みながら、“恐怖”について考えていた。

放射能は目に見えないし、ただちに体に変調をきたすこともない。さらに人がどんどん死んでいるわけでもない。しかしそれが恐ろしいものであることは、ニュースなどで繰り返し学習させられている。これによって僕たちはイメージだけで放射能に対する恐怖が刷り込まれているのだ。

これは危機回避という意味では有効な手段だろう。しかし、そこにある恐怖というものは目に見えるわけでもないため、自分の内部でぐるぐると回って少しずつ増長していく。自分で恐怖心を育ているようなものだ。そしてその恐怖心を何とかするために、例えば今回であったら高額なガイガーカウンターを手に入れたりする。これを恐怖ビジネスと言っていいのなら、このビジネスがヤクザや新興宗教と親和性が高くなるのは当然だろう。

Posted by Syun Osawa at 23:48