B E M O D
top
empty.gif
column > event

インディーズアニメが超えるべきもの(東京国際アニメフェア)

東京国際アニメフェスタ
国際展示場入り口付近

 方向が定まっているのか定まっていないのかわからないまま進化し続ける東京国際アニメフェア。当初は半信半疑で始まったこのイベントも回を重ねるごとに成長をとげ、何でも今回は来場者数10万人を突破したそうな。ジャパニメーションが凄いのか、献身的な日本のオタクが凄いのか、はたまた間違ってやってくるファミリー層が凄いのか。答えは誰にもわからない。

 筆者の今回の目的は、インディーズアニメ上映会に参加すること(これは外せない)、そしてガイナックス20周年イベントに参加することであった。

 そんなわけで、まずはガイナックス20周年イベントから。「ガイナックス20周年」という響きにすっかり騙された。庵野、貞本、摩砂雪らが参加し、グジグジとオタキング批判をしながら『怪傑のーてんき』の上映でもやりつつ、脱税問題をサラッと笑い飛ばすのかと思っていたら、単なる『 忘却の旋律 』のプロモーションイベントだった。がっかり(そーいうのやって欲しいなぁ…)。

 まぁ…怪しいスーツ姿の武田氏を見られたことが唯一の救いかな。ガイナックスのスタッフの言葉を聞いていつも羨ましく思うことは、「大学の頃にアマチュアでやっていたまんま大人になり、今に至っている」姿勢が貫かれていることだ。ズルイというか何というか…絵になるプロダクションですよ。武田氏の話によると、どうやらオリジナルの新作も地下で進行中らしい。メカ物だといいのだけれど。

 ガイナックスのイベントは、一昨年の 4巨頭対談 ほどの破壊力はなかったので、別段語ることはない。語るべきはインディーズアニメの方である。こればっかりは語らないわけにはいかない。だってそうでないとタイトルとの辻褄が合わないもの。

 □ □ □

 東京国際アニメフェアは入場料が1000円となっている。しかしこれは企業ブースが立ち並ぶ展示会場と声優などが出演するイベント会場の入場料であって、アニメ映像の上映会場の入場料ではない。そう。東京国際アニメフェアでは上映会場は別に設置されており、インディーズアニメ志向の映像作品だけを楽しみたい人は、無料で堪能できる素敵なシステムになっているのだ。

 上映会はいくつかの部屋に分かれていて、それぞれ同時進行で映像作品を上映している。テンコ盛りな感じがお得感を盛り上げているが、一度に複数の作品を見ることはできないので、涙をのんで諦めなければいけない作品も出てくる。会場入りが遅れたこともあり、残念ながら今回は「東京アニメアワード公募作品上映会」と「カナダ国立映画制作庁アニメーション集」の一部を見ただけで終わってしまった。そのほかに「アヌシー国際アニメーション映画祭受賞作品上映会」や「日本アートアニメーション映画選集」など僕の琴線に触れまくる素晴らしい上映会があった(しかも無料!)にもかかわらず、それらの上映会に参加できなかったことが悔やまれてならない。やはり上映会は一人で行くべきだな…。

Africa a.F.r.I.c.A
Africa a.F.r.I.c.A

 そんなわけで今回はインディーズアニメをたくさん見ることは適わなかった。だがしかし、アニメ作品は量より質が重要である。質の部分でこれまでの公募作品を圧倒してみせた、東京アニメアワード公募作品部門グランプリ受賞作品『 Africa a.F.r.I.c.A 』について触れないわけにはいかない。

 同作品の監督はハン・テホ。韓国人である。韓国人でありながら、アメリカワーナーブラザースの「ミュータント・タートル」「バットマン」のアニメーション監督を務めるなど、いわゆる“アメリカ本格派”に属する実力者だ。アフリカの現実をシンプルな背景とキャラクターの微妙な表情の変化に投影した同作品には、インディーズアニメ特有の青臭さや安っぽさはない。また砂漠という場面設定が 3D のウソっぽさを上手に解消しており、物語の後半に爆発する動物の大群や色鮮やかな風景との対比を鮮明に描き出していた。さらに絶対的なものとして登場したクジラがヒレで水面をすべらせるシーンなどは、ただただ雄大で監督の志の高さを伺わせるものである。日本人の感覚から少し遊離した色彩感覚は韓国独自のもの(韓国のデザイナー参照)なのだろうが…ちょっとやりすぎな感じがしないでもない。それはまぁ好き好きかな。

 いつもならこれで終わるのだが、今回は訳あって企業ブースの方にも参加した。入場料1000円は僕的には痛いのだけれど、クリエイターズワールドのブースで入場料の元をほとんどとってしまった。なぜなら、インディーズアニメの進むべき道、そして超えるべきものを僕に明快に示してくれたからだ。

 □ □ □

 今回、企業ブースに設置された「クリエイターズワールド」には 13 組のクリエイターが参加し、映像によるプレゼンなどが行なわれた。参加していたクリエイターは、以下のとおり。

青山敏之、AC 部、奥井宏幸、御動画処 一休庵、カナバングラフィックス、奇志戒聖、坂本サク、ササキワカバ、竹内義、丹治まさみ、松本力、村上浩、メテオール

 DoGA コンテストで名をあげた DoGA 系、アート方面から侵食してきた美大系(俗称として僕は多摩美系と呼んでいるが)、アニメ業界からはぐれてきた新本格系に大体の人が属する。みんな何かしらの賞を受賞しており、どの作品も個性的でクオリティも高い。とくに渡辺浩弐の深夜番組から飛び出し、世界を制した富岡聡氏のカナバングラフィックスなどは、CG 製作会社としてオリジナル企画作品を立ち上げるという CG 界のガイナックスとでも言うべき堂々たる展開をみせている。

元祖マジックサーカス
元祖マジックサーカス

 今回のクリエイターズワールドで目を引いたのは、またしてもセル系 3D アニメだった。同系列作品としては、御動画処一休庵 が 2002 年に製作した『 ほたる 』はラピュタの 3D 的側面を見せつけ多くの観客を集めていた。しかし今回の作品群の中でもっとも高いポテンシャルを見せつけていたのは、村上浩 氏の『元祖マジックサーカス』であっただろう。インディーズアニメが今後目指すべき方向性を探る上で、この作品の存在意義は非常に大きい。

 村上浩氏はオムニバスアニメ映画『 ANIMATRIX 』の「 Kid's Story 」(監督・渡辺信一郎)で CGI 監督をつとめ、マッドハウスの劇場アニメ映画『東京ゴットファーザーズ』や TV シリーズ『妄想代理人』(いずれも監督・今敏監督)に参加している新本格系のクリエイターだ。

ほしのこえ

 この作品の製作過程を簡単に説明すると、動画部分(キャラクター)はセルシェーディングされた 3D アニメを使用し、背景部分は最初に 3D で組み立てた背景の輪郭線だけを抜き出し、その上に着色するという方法をとっている。この背景画の作り方法は、新海誠氏が『ほしのこえ』で使用した方法(写真をトレースし、その上に着色して背景を作っていた方法)の進化系である。

 背景を 3D で作る方法の利点はカメラのアングルを自在に変化させる点にある。この方法を用いると、シーンにあわせて背景を自在に設定することができ、使いまわしのメリットが大きい。しかし写真からのトレースは手軽なため、製作時間が大きなネックとなる個人ベースではどちらの有効なのか? という点についてはまだまだ検討の余地があるだろう。

 だが、村上浩氏の『元祖マジックサーカス』は、ついに個人製作アニメとして名実ともに商業動画の尻尾をつかんでしまった。そう確信した。プロのクリエイター、評論家から見れば異論を挟む余地は多分にあるのかもしれない。しかし重要なのは、このクオリティの作品が個人ベースで作り上げられるという現実と、それを流通にのせることができるという現実である。『元祖マジックサーカス』には商用の既存アニメと比べ、見た目の違和感が無い。これが何より大きな現実なのである。

 そして、こうした現実は「インディーズアニメには華々しい未来が待ち受けているに違いない」といった幻想を僕たちに抱かせる。しかしながら、クリエイターズワールド、東京アニメフェア公募作品群の品質レベルの高揚と相反する形で頭をもたげた問題があった。僕はこれは重要かつ深刻な問題であると思っている。その問題とは何か?

 「キャラクター性の肥大とドラマ性の希薄」である。

 □ □ □

top
Composed by Syun Osawa since 10.1997