bemod

February 21, 2005

第3回 インディーズアニメフェスタ

第3回 インディーズアニメフェスタ昨年に続き 三鷹のアマチュア映画祭に参加。相変わらずの閑散ぶりだったが、審査員や講演者も豪華だったし、上映された作品群も未見のものがほとんどでなかなか刺激的だった。とりあえずメモと感想を2回に分けて書き殴る。

【大地丙太郎氏による基調講演】

アニメ監督として知られている大地氏のキャリアのスタートが『コナン』の撮影カメラマンだったことにちょっと感動。彼の話によると『コナン』のタイムシートは尋常でないくらい精密で、しかも先輩スタッフが面倒臭がってごまかしをやると宮崎駿が怒鳴り込んできたらしい。青春ですね。

講演の途中で彼の作った3分の自主アニメが上映された。はっきり言って紙芝居レベルの動き(つうか動画ないし)だったけど、声優とカット割の上手さでエンターテイメントとして完成させる技術はさすがはプロという感じ。

彼のようにアニメ業界の一線でやっている人は自主製作のアニメなんかには興味が無いのだと思っていたんだけど、どうやらそうでもないらしい。実際に 彼のサイト でも自主作品を公開しているし、講演の中でもパソコンを使って一人でアニメを作りたいと話していた。こういう願望を持つアニメ業界の人ってどれくらいいるんだろうか? プロの原画マンが各々こういうことをやりだしたら、かなりクオリティの高い作品が出てくると思うんだけど。

【第一部 上映プログラム】

『あかね雲』by あかね丸
たしかデジハリ勢力の作品ですな。3回くらい見たような気がします。この作品で一番好きなところはふんどし男達よりも、主人公の男の子の走り方。走るアニメーションを正確に表現することの難しさを逆手にとって、コミカルに表現してる。

『謎かけにほんふうぶつし』by 川瀬いつか
ほのぼの系ちぎり絵アニメ。『欽ちゃんの仮装大賞』みたいな言葉の紡ぎ方が、ちょっと恥ずかしかった。

『14歳』by 宮田眞規
感想は後述するが、今回の上映会の僕的NO.1作品。14歳の男の子の心の事情を表現したセル系アニメ。使い回しも多かったが、よく動いていた。

『meme self duplicator』by 山崎陽平
人の子を生むことに憧れるロボットの話。こちらもセル系アニメ。どういう経歴を積んだらこのクオリティの作品を作れるのだろうか。独学だとしたら驚愕です。商業アニメに近いクオリティだった。ツッコミどころとしてはラストかな。大切なものはわかってないだろ、とちょっと思った。

『まやかしキネマ』by 山原やすひろ
おそらく3D系アニメ。キャラの目はちょっとねこじる入ってる。コメントに「コンセプトは子供から見た大人」と書かれていたが、「大人から見た子供から見た大人」に何を託したのかちょっと読みづらかった。

『高橋宗太郎と地獄の古本屋』by 一之瀬輝
コマ撮りの人形アニメなのかな? 今回上映された中で一番上映時間が長かった。ストーリーありきの作品で、作者の気合いはビシビシ感じたのだけど、本屋の会話劇(事件の概要を説明)は、鳥みたいな魚がいたとしてもちょっと長く感じた。

【第二部 上映プログラム】

『ウシガエル』by つかはら
日本のFLASHアニメ界でいま最も実力を持ったつかはら氏(弥栄堂)による作品。ネズミとネズミ駆除機の追いかけあいというシンプルな物語を、スピード感のあるカメラワークと演出によって力強い大作にしてしまった腕力に感服。このクオリティの作品がザクザク出てきて、そこから更に上を行く作品が出てくれば時代は動くと思う。

『コドモノ抜け殻』by 長谷智恵子
MTV系作品。映像のセンスがいい。ただアニメーションと言うにはちょっと動いてないような…。自主製作アニメとミュージッククリップの融合はもっと力強く進めるべき。

『sai』by きむら
作者のコメント欄に「子供の純粋な愛情を描きたかった」とある。自主製作アニメのテーマとして、こういった内容のテーマを掲げる人は意外に多い。そして、その中に込められているものが「子どもへ」ではなく「自分の中の子ども性へ」向かっているのがちょっと気がかり。

『Morning Man』by 瀬野志津佳
布を使ったアニメーションという出発点はとても興味深い。ただ布であることの意味は伝わってこなかった。僕はセルアニメという難攻不落な表現方法から脱却することがアート系アニメの一つの命題だと感じていて、そこに挑戦する人は尊敬する。ただそこを突破するのはセルアニメを作ることよりもはるかに難しいと思っている。そういう点ではパワー不足。

『ジョブスはかせのけんきゅうじょ』by Bricks Tricks Production
レゴ風アニメーション。3Dで作ったのだろうか。動きの貧弱さからくる映像のトーンダウンは狙いだとしても、Tomilandの作品 のようなオリジナリティのあるパロディだったらなぁ。好きな世界だけにちょっと残念。

『ひまわりの種』by 白井裕美子
今回上映された中では最も心に迫る作品だったと思う。3Dにはない生っぽさはアニメの機械化が進んでも絶対に残ると改めて思った。間の抜けたおじさんの行動が、ラストシーンを一層深いものにしている。素晴らしい。

『MY HOME』by 木魂
3Dのことはよくわからないが、プロの作品として何ら問題ないクオリティの作品に映る。MTV系アニメはこのクオリティで広がってくれたら嬉しいな。ただしラストは不満。家がダメだから車ってのは、築紫哲也の「スローライフ提唱」みたいでちょっと僕には食傷かな。

『DIMENTIONAL ESCAPE』by 佐伯雄一郎
実写と3Dアニメと2D風3Dアニメの融合。オチもしっかりしていてかなり内容的に濃い作品。3Dのシェーディングもカッコイイし、テンポもいい。もしも足りないところがあるとすれば、二人が追いかけあう最初の設定(イントロのドラマ)がショボイところか。実写の映画祭の方が評価されるかも。今っぽ過ぎて突っ込みどころ特になし。

【感じたこと】

今回の上映会で一番心に残ったのは宮田眞規氏の『14歳』という作品。若さの特権をフルに生かしてひたすら「疾走感」を追っている。そしてスタジオ4℃のフォロワー的な陰影の強調されたセル絵とSF的ディティールが印象的で、動かしたい要素が散りばめられた熱い作品に感じられた。悶々とした内面を爆発させたい欲求が突っ切るイメージとして表現されていて、まさに「青春」って感じ。

もちろんそれらの熱気や青臭さは絵だけで表現されていたわけではない。この作品ではハイロウズの曲が観客の感情移入に大変大きな役割を果たしている。14歳をイメージした青い映像とヒロトの声が合わないわけがない。ここからわかるのは、音楽がヘボければ作品はダメになるし、音楽がよければアニメがヘタってても見れてしまうということ。そして両方が上手く相乗効果を発揮したとき、MTV系はストーリー物にはない力を持つ。

MTV系は個人作家による自主製作アニメにおいて、最も伸びる可能性のある分野だと思う。実際、NHKの「みんなのうた」では個人のアニメ作家が活躍している(ただ媒体がNHKということもあり、インディーズの熱狂が感じられないのは泣き所でもあるが)。ただ僕の嗜好としては、白井裕美子氏の『ひまわりの種』のような問題提起のある作品がたくさん出てくれると嬉しい。物語の再構築は批評家の嘆きなど無視して、ひたむきにやるべき価値のあることだと思うし。

さらにこれは毎度思うことだが、3Dの作品はプロとアマチュアの差を映像のクオリティだけで判断するのは難しくなっている。どうやらある程度の期間、学校で基礎を学べばそれなりの作品が作れてしまうことは間違いないらしいし、セル的な融和も昨年の『アップルシード』で極まった感じがある。ただしそれは、機械のレベルが上がっただけに過ぎない。

音楽の世界でサンプラーが安価で手に入るようになったときによく言われた言葉を自主製作アニメにも当てはめるならば、「決して作家のレベルが上がったわけではない」のだ。なぜなら商業アニメ業界のアニメーターの空洞化や老齢化が叫ばれる中で、アマチュアだけがレベルを上げているとは考えられないからだ。

アニメ業界の閉塞という固定されたイメージは、十年以上前から変わるところがない。そこへロマノフ比嘉氏や新海誠氏のような一人で作るタイプ(昔の漫画家のようなタイプ)のインディーズアニメ作家が登場し、一部にはそうした閉塞したイメージを突破する糸口になるかもしれないという話がまことしやかに流れた。

だがそうした個人作家も、商業ベースに乗れば「まな板の鯉」状態で、これまでアニメ制作会社を苦しめてきた「メディア>代理店>制作会社」という構造を同じように踏襲する可能性があると感じている。もしも業界再編の機運が代理店主体で行なわれたならば、製作者の不遇はこれまでのように続くことになると思う。このあたりは勝手な妄想であり、根拠もないのでもう少し長い目で見つめていきたい。