MOD の魅力
未来は僕らの手の中
1987 年に Karsten Obarski が発表した Sound Tracker はデジタル音楽の世界に革命をもたらした。オープンソース。フリー。誰もが改良可能で，誰もがそのソフトウェアを用いて音楽を作り出すことができた。
90 年代中期，Triton Productions が発表した Fast Tracker 2 と，Pulse が発表した Impulse Tracker は MOD の音楽的地位を不動のものとした。メジャーの音楽ソフトメーカーをも凌駕するこの 2 つの Tracker は，インターネットの普及に呼応して世界中で支持され，Five Musicians など素晴らしい音楽クリエイターを生み出した。
21 世紀。ModPlug Tracker を筆頭に Renoise ，Skale Tracker , PSYCLE , Mad Tracker といった新しい Tracker が次々と台頭してきている。これらの Tracker は第三世代と呼ばれており，Windows 上で動くのが特徴だ。しかし，オーディオファイルを扱うシーケンサーは珍しくない。大手ソフトメーカが次々とこの市場に参入してきており，そのシェアは年々拡大傾向にあるからだ。しかし，彼らはそうした大手メーカーのソフトウェアに真っ向から戦いを挑んでいる。「音楽は作らされるものではなく，作るものである」という強い信念が，彼らを突き動かしているのかもしれない。
夢見る頃を過ぎても
例えば，ネットでの普及を考えた場合，一番最適とされる形式は MP3 形式である。しかし，それは市販されている CD をコンピューターの世界の中に置き換えた時の話であり，バンドのジャム演奏のような効果は決して望めない。
MOD ファイルとはオーディオデータとシーケンスデータが両方含まれた，いわゆるマスターテープである。よって，スネアの音一つ，シンセのリフ一つを抜き出して他の楽曲に流用することも，また新しい音を追加したり，パターンそのものを変更することも可能なのである。
つまり，誰かが作った音楽ファイルを，インターネットを通じて違う地域に住む誰かが作り変える。さらに，それを別の国の文化も言語も違う誰かが作り変えるというように，MOD には音楽が組み上げられた瞬間を終焉としない，極めて流動的な側面を持ちあわせているのだ。
MOD は音データからシーケンス部にいたるまで，すべてがオープンソースである。90 年代を Remix の時代と定義するならば，MOD はまさにその時代を象徴するにふさわしい音楽形式であったといえるのではないだろうか。