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2018年1月16日

火花

又吉直樹/2015年/文藝春秋/四六

火花漫才師が初めて芥川賞を受賞したということで話題になったピース又吉の小説を今更ながら読んだ。芥川賞にはデビュー間もない新人作家が受賞するケースとそこそこのキャリアがありながら受賞していない中堅作家が受賞するケースがあり、今回は完全に前者。綿矢りさと同じパターンだ。

このパターンは作品の内容以上に受賞者のキャラクターにスポットライトをあてられることが多く、小説の内容はそれほど知られてないというケースが少なくない。僕も漫才師が書いた漫才師の小説ということだけは知っていたのだが、どういうストーリーなのかは知らなかった。

そこそこ面白かった…というのが僕の最初の読後感。

ストーリーにグイグイ引き込まれるというようなエンタメ性はないものの、時折挟まれる漫才のネタなどはさすがに漫才師だなと思わせるセンスの良さで、あまり過度に斜に構えたというか高度な読みを必要とさせる内容になっていなかった。

その一方で、松尾スズキ『 老人賭博 』のように笑いの部分意外のところでのプラスアルファの期待という意味ではやや消化不良だった。大前提としてそこそこ売れてるお笑い芸人が書いているという前提が担保されており、それを無視してこの小説を読む人はほとんどいないと思う。はたして、フリーターの無名なお兄さんが書いてこの小説が芥川賞をとれたか?…というとちょっと疑問も残る。その以前に小説として掲載されたかもなかなか微妙な気がする。

お笑いの要素はそういう「誰がそれを言っているか」ということも重要なので、この小説も「誰が書いているか」ということが大前提になっていたように思う。それだけに次の作品というのはとても興味深い。

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図解雑学 美術でたどる日本の歴史

並木誠士/2002年/ナツメ社/四六

図解雑学 美術でたどる日本の歴史西洋の美術史はキリスト教の歴史とリンクしているのに対して日本の美術史は仏教史とリンクしている。それが室町時代くらいから独自の絵画が生まれてきて、行きつ戻りつしながら日本画の系譜が作られていく。この手の話はもともと知っているので、今回の本ではそれをなぞったという感じだった。

変な思想的偏りなどもなくダイジェスト的に書かれているのでこのシリーズとしてはまずまずというところなのかもしれない。情報量的にはwikipedia程度だがwikipediaで見ていくのは大変だからね。ただ絵が実物ではなく簡易な模写だったのが残念だった。著作権が切れているんだから勝手に使えば良いと思うのだが…。

日本では歴史的に価値のある絵か歴史的なトピックスを描いた絵が重宝されがちだが、江戸以降の芸術のほうが今の漫画・アニメに近い雰囲気があるので、個人的にはそちらをもっと深掘りしたほうが楽しめるんだろうなとは思う。

以前、東京国立博物館へ行った時に墨汁の入れ物コレクションが展示されていて、その種類の豊富さと技工のレベルに驚かされたことがある。そういう類の芸術は当然この美術史には入っていない。

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ヒップホップ・ドリーム

漢 a.k.a. GAMI/2015年/河出書房新社/四六

ヒップホップ・ドリームJ-Hiphop界の重鎮である漢 a.k.a. GAMI氏による半自伝本。タイトルの「ヒップホップ・ドリーム」はやや大げさで、これを言っていいのはZeebraだったりKrevaだったりRhymesterだったりという気もしないではないが、ラッパーの等身大の姿がストレートに書かれていて内容的にはとても面白い本だった。

ドラッグの売人ということをストリート・ビジネスと言い換えているが、ここまで明確に売人として生計を立てていることを前提に書いている自伝も珍しい気がする。もちろんヤクザ関連の本ではそういう内容は普通にあるが、アンダーグラウンドを主戦場にするラッパーという立場でそうした内容にダイレクトに触れているのも面白かった。

僕自身が本格的にヒップホップに興味を持ち出したのは2008年くらいなので、この本に書かれている内容を残念ながらリアルタイムでは体験できていない。ゼロ年代の批評には興味があったので、その関係からTHE BLUE HERBなどは聴いていたが中二病的な世界観を歌うラッパーだからヲタクにも響いているのかな?…くらいの認識だった。

やがてSEEDAやNorikyoを聴くようになり、代々木のB-BOY PARKに行ったあたりでだんだんラッパー事情がわかってきて、ラップと彼らの行動がリンクしていること(例えば、どこそこのクラブで喧嘩したというレベルの話も含め)がエンターテイメントとして昇華されていることも知った。

そういうリアルエンターテイメントと呼ぶべき日本のストリート系ヒップホップの一側面(というか東京の一側面か)を遅ればせながらようやく楽しめるようになり、過去のYoutubeやらブログやらを漁りつつ楽しんでいるところでこの本を読んだ。ヒップホップを知らない人からしたら小さな話の集合体のように見えるかもしれないが、日本におけるヒップホップ・コミュニティにとってはとても充実した記録になっているように思う。

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常設展示特集「燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」

2016年9月4日/13:30-14:30/府中市美術館

常設展示特集「燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」久しぶりに 戦争と芸術 関連の話題のためだけに美術館へ行った。別にこの趣味に飽きたからではなくて生涯学習としてやると決めているために優先順位がどうしても下がってしまうのだ。

そして今回の美術館のある府中という微妙な距離感。アイドルヲタク全盛期の僕なら絶対に行かなかったであろう場所だが、最近は時間にも余裕が出てきて再びこの趣味について勉強を始めたいという思いが湧き上がってきたために行くことにしたのだ。

府中駅で降車し、やたら混んでいた運賃100円のバスに乗って府中市美術館へ。美術館の後ろにはかなり綺麗な公園もあり住環境としてはかなり良さそうな雰囲気だった。

という御託はともかく展示内容について。

常設展の中での企画展示だったのであまり期待していなかったのだが、想像以上にしっかりとした(それこそ企画展と呼ぶにふさわしい)展示だった。新海覚雄氏はどちらかと言うと左というかプロレタリア系の画家であるだけに、ここまでの厚遇は今どき珍しい気がする。府中市平和都市宣言30周年記念事業ということが理由なのかもしれない。

新海覚雄は戦後に労働運動をモチーフにたくさん得を描いているが、戦前・戦中は深く社会運動にコミットしていたわけではないようだ(シンパではあったようだが)。彼の絵でもともと知っていたのは《貯蓄報国》だけで、これも戦争画として記憶されているが、戦争に備えて貯蓄しましょうという国の方針に沿った銀行の絵で生々しい戦いの様子が描かれているわけでもない。

そういうあたりから戦争と芸術についてはなにやら考えられそうな気もするが、この手の話題について考えるのが久しぶりということもあってなかなか頭に妙案が浮かばないでいる。

死語になっているかもしれないが、いわゆる右と呼ばれる保守派の人と左と呼ばれる革新系の人が最終的には同じような価値観を共有しているという問題において、戦前のプロレタリア運動(左)と戦中の苦しい今こそお国のために頑張ろうという右的な運動が似たような場所で結びついている。芸術の世界でもそうした思想の一致が残した影響というのは少なくないと思うし、またそうした影響について深く考えられそうなな画家の一人のような気もした。

戦中に特攻に捕まって転向した左系の人たちが熱烈に保守派の論客になったり、また戦後に揺り戻して左翼になったりするケースがたくさんあり、そのことについて批判する芸術家も少なくなかった。新海氏の場合は転向したわけではなく、ただ戦後はかなり労働運動系にコミットしているのでそのあたりの思想的な動きというのは彼の芸術を追いかけでる上では重要だろう。

(関連) 戦争と芸術

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このムダな努力をやめなさい

成毛眞/2014年/三笠書房/文庫

このムダな努力をやめなさい1時間くらいで読み終えた。

この本の前にサンダースの自伝を読んでいて手こずっていたから、いい箸休めになった。言っていることは完全に正論というか、僕的には同意できる話が多かった。

ところが、同意した後に僕の気持ちの中にうわっと立ち上がる「正論だけど会社では通じないんだよなぁ…」という絶望に似た気持ちがどうにもならない。会社の中にも信頼できる人たちがいて、そういう人たちはビジネス本も読んでいるだろうからこの本の価値観も共有できるのだが、一方でダメ上司のような部類の人たちには通じない。

本当は薄々わかっていながら、しかし自分の会社の中でのポジションを守るためにこの本とは違う価値観で生きるという選択をする。そういう選択をする中年の多さが日本を伸びなくていることを本人たちもわかっているはずだ。しかしそれをやめることができない。こういうジレンマを想像してしんどくなるのだ。

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2018年1月15日

三崎尚人の同人誌レポート 同人誌事件簿 1989-2011

三崎尚人/2012年/同人誌生活文化総合研究所/A5

2012年の冬コミで購入したのに、これを読んだのが2016年の9月という時点で僕のオタクとしてのやる気はかなり低下していると言っていい。それでもちゃんと読んだということは残念ながら僕はまだオタクの残党として生きながらえているからであり、それはそれでどうなのか?という思いもある。

ともかく、1989年から2011年までのコミケの事件簿を読むと、そこで問われていることは常に表現の自由とアダルトの何やらで、日本という国は良くも悪くも大らかで、しかもイベントの規模から考えてどう考えても安全に運営されているんだなと気付かされる。だからこそ粗探し的に負の側面ばかりがクローズアップされるのだろうが、多くの場合は外国からの要請や商売の観点からの問題が大きく、エロに関しては昔も今もそれほど問題の深刻化があるわけではなく、ほどほどにバランスのとれた運営がなされていると思われる。

それを規制でがんじがらめにして身動きできないようにすることが社会にとってプラスになるとはどんな頭の硬い議員だって思わないだろう。事実、表現の自由と規制の問題は毎度訴状にあるが、日本には規制に慎重な議員も多い。それはこれといった問題もなく運用されているものに対して、わざわざ規制をかけることで吹き出す問題のほうがはるかにリスクが高いということを理解しているからだろう。

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jadda vol.2

日本同人誌デザイン協会/2012年/同人誌/B5

jadda vol.2日本同人誌デザイン協会というサークルが出している同人誌の第二弾。ちなみに第一弾は無料で読むことができるる。

『オタクとデザイン』などのラノベや美少女ゲームを軸としたオタク文化とデザインをダイレクトに繋ぐ試みはいちファンとして追いかけていたので、ゼロ年代にそれらがしっかり熟成されて一つの歴史を作っていることに感慨を覚えた。

ただし、オタクとデザインが融合することで新しい何かが生まれるということは特になく、オタクのファッションがファストフード化の煽りを受けてだんだん小奇麗になっていく文脈にただ沿っているだけという批判も予想でき、その批判を超える何かがあるのかな?…ということをぼんやり考えながら読んでいた。その問いに対する答えはちょっと難解かもしれない。

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プロレタリア芸人

本坊元児/2015年/扶桑社/四六

プロレタリア芸人千鳥の番組をYoutubeで見ていた時に何度か登場していたのが著者の本坊氏だった。芸人としての仕事はほとんどなく、大工として日々を過ごしているということで、自虐的に大工の激務を語るその内容がとても笑えた。正確には泣き笑いというべきか。

素朴に自分の体験談を書いていることが成功していて、タイトルにもある「プロレタリア」が強く滲んでいた。芸人というかなりハードルの高い夢を持ちながら貧乏生活をしていることと、それによって生活が苦しくなっていることの自分への負担というか矛盾というか、そういう悶々とした思いを持っているところもかつての小林多喜二(彼も小説を書いていた)を髣髴とさせる。志の高さよりもそういう生活状況から生まれてくる声みたいなものがとにかく良かった。

あとは仲間の存在。ぶっちゃけこれに尽きているのかもしれない。芸人の良さというのは誰もが等しく貧乏を経験していることもあって、売れていない芸人に対しての目が優しい。だからこそ売れている・売れていない関係なく同時代を生きた芸人たちが横に繋がっているその姿は僕にとってはとても羨ましいものだった。

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火車

宮部みゆき/1998年/新潮社/文庫

火車2016年の都知事選で弁護士の宇都宮健児氏が立候補を取り下げ、しかも取り下げ理由となった鳥越氏への応援をしないということが話題になった。これまでも宇都宮氏の存在は知っていたし、実のところ彼に投票していたのだが、共産党のプロパーくらいにしか思っていなかった。

ところが、今回話題になったことで彼のプロフィールを追いかけてみると、僕が思っていた以上に素晴らしい仕事をされており、共産党色もそれほど強くなかったことがわかった。共産党の支持者ではない僕としてはこのことでさらに興味を持ち(僕は共産党の支持者ではないため)、宇都宮氏がモデルになったと言われるこの小説を読んでみることにしたのだった。

何気にこの小説が初めての宮部本。触れ込みとしては社会派ミステリーの傑作らしかったが、僕の率直な感想としては「まぁまぁ」といったところ。途中で話のオチが見えたことと、最後の最後でちゃんと風呂敷をたたまなかったことで消化不良を起こしたことが原因。あとは宇都宮氏を念頭に読んだので、彼がモデルになった弁護士の活躍が少なかったことも大きい。

全体の印象は悪くなかった。

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となりでコスプレ博 in TFT 3日目

2016年8月14日/15:30-18:00/東京ビッグサイト

本当は土曜日に行くつもりだったとなコスへ。TFTへは何度か行ったことがあったが、コスプレと同時開催しているとなコスへ行くのは初めてだった。ある程度混んでいることは予想していたが、人が多すぎて撮れる環境にはないということまでは思いもしなかった。

TFTの時には撮影スペースになっているところにレイヤーが大挙して座っていて楽しそうにおしゃべりをしている。ようするに同窓会的な「いつもtwitterで絡んでいる○○ちゃんに挨拶できた」的なノリを楽しむ場だということを理解するのに10分もかからなかった。

何も撮らずに帰るのは3000円をドブに捨てるようなものなので、同じ場所を行ったり来たりしながら、わずかに撮影を行っている(しかも野良カメコが撮っている)心優しいレイヤーさん数名に撮らせてもらって離脱した。

コミケ3日目の夕方ということもあって、おっさんの体力的にも限界だった。そのためTFTの外へ出てみるという想像力が足りず屋内をウロウロしただけに終始してしまったことは結果的に敗因にもなった。帰ってからtwitterのTLに流れる速報を見てみると、野良カメコの多くは屋外でレイヤーさんを撮っていた。外に出れるとは…これは勉強不足だった。

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