bemod

2004年08月08日

漫画映画の先駆者たち

mangaeiga東京国立近代美術館フィルムセンターで開催されていた「日本アニメーション映画史」という上映会に参加した。僕が観たのは「漫画映画の先駆者たち」の回。文字通り、日本産アニメの黎明期の作品群だ。いずれも1920年代に製作されたもので、太平洋戦争の前のアニメ作品である。

初期のアニメといわれると、僕などはすぐに日本初のTVアニメ「鉄腕アトム」や「狼少年ケン」、今や伝説となった長編アニメ映画「白蛇伝」などを思い浮かべる。もしくは、自主製作系アニメであれば久里洋二、柳原良平、真鍋博(アニメーション3人の会)など。いずれも1950年の後半から60年代にかけての作品で、今回見たアニメはこれらの作品よりもさらに30〜40年前の作品ということになる。

僕にとっては何といっても戦前というところに心引かれる。そのあたりのことは後半に触れるとして、各作品の雑感をチラチラと。

『蟹満寺縁起』 by 奥田秀彦&木村白山&内田吐夢
(11分/35mm/白黒/無声/1924年/朝日キネマ合名社)
蟹を助け、最後にその蟹に助けてもらうという典型的な昔話。秒間何フレームで動いているのだろう。そればかり気になった。横向きのシーンが多く、切り絵のコマ撮り(FALSH のモーショントゥイーンを思い浮かべればわかりやすい)が中心。しかし、枚数を重ねてちゃんとアニメーションしている部分もあった。キャラクターだけをフェードアウトさせて消す技法が使われていたのは新鮮だった。

『勤倹貯蓄 塩原多助』 by 木村白山
(10分/35mm/白黒/トーキー版/1925年/朝日キネマ合名社)
声あり。こちらもいわゆる昔の時代劇。それなりに動いてはいたのだろうけど、ほとんど記憶がない。

『ノンキなトウサン竜宮参り』 by 木村白山
(10分/35mm/白黒/無声/1925年/鈴木映画)
働かない父さんが竜宮上に行って、戻ってきておじいちゃんになるという浦島太郎のパロディ。最後には竜宮城から請求書が。ブラックなユーモアが効いていて今見ても笑える良作。動画部分をとってみても他作品と比べて群を抜いてよく動く。バストアップではなく、全身のキャラクターをちゃんと歩かせ、ちゃんと走らせていた。浜辺の背景を実写に頼っていたのは印象的。会話部分は無声映画のそれ(動画とコメントを別々に表示させる方法)ではなく、漫画と同じふき出し形式。布山タルト氏が「SFの助」でやったときは新鮮に感じたが、80年前から存在した技法のようだ。

『映画演説 政治の倫理化』 by 幸内純一
(32分/35mm/白黒/無声/1926年/スミカズ映画創作社)
プロパガンダ映画。タイトルにもあるとおり演説というだけあって、文字がベースで見ていて結構飽きる。ただ演説内容は当時の時代性を反映して面白かった。よーするに「今の年寄り(政治家)は金と権力に生きているからダメだ。青年よ、国に危機が迫っている。目覚めよ!」というような内容。226事件が起こったのも納得できる。学校の先生から教えられたことだけでは、当時の時代の空気を読み取るのは難しいと改めて実感した。技術的な部分では、アニメのキャラクターが実写に移り変わるというトレースを利用した手法が用いられており、こういう斬新な技術を日本が独自に生み出していたとすれば、これはかなり凄いと思う。

『漫畫 魚の國』 by 木村白山
(15分/35mm/白黒/無声/1928年/文部省)
文部省製作というのが凄い。早い話がプロパガンダ映画。小さな魚たち(日本)が黒いクジラの軍団(外国)に襲われ、最期は魚たちが団結してクジラ軍団を倒すという話。内容はどーでもいいのだけれど、魚のキャラクター設定が不思議で、なぜか魚の頭に人間の体といういでたち。上官がタコというのもよくわからない。

『お江戸の春』 by 正木(柾木)統三&玉の浦人
(6分/35mm/染色/無声/不完全/1928年/東亜キネマ)
切り絵。絵はかなりPOPで、今のアート系などの作品の中にもかなりパクってるのがあるんとちゃうか? と思うくらい完成度の高いまとまった漫画絵。古いけど。

『四十人の盗賊(朱金昭)』 by 鈴木俊夫
(17分/35mm/白黒/トーキー版/1928年/銀映社)
影絵。声あり。アリババと40人の盗賊。子供向け映画なのだろうか。内容は結構エグい。小学校の頃、影絵の劇を何度か見に行ったことを思い出した。

1920年代のアニメが予想以上に面白く驚いた。現在、国がアニメに予算をつけて、国家の枠組みにアニメを組み込もうとしている。大塚英志なんかはそれを嘆いているが、よくかんがえると黎明期にも国が予算を出してアニメを作っていた例がたくさんあったわけだ(そーいう意味では大塚の言ってるアニメのサブカル的捉え方だって、うーむ…)。ま、そんな多くはプロパガンダ映画なのだけれど、そういう歴史から学ぶなら、いつかはプロダクションI.Gやスタジオジブリが「世界の子供達を助けるために、みんなで自衛隊に入ろう!」的なアニメを作るかもしれんなぁ、としみじみと思うのでした。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 22:04