bemod

2004年09月22日

さみしさの周波数

さみしさの周波数角川スニーカー文庫に手を出してしまった。『さみしさの周波数』はとっても素敵なタイトルだと思う。同本に収録された短編は4編。そのうち「手を握る泥棒の物語」と「失はれる物語」は『失はれる物語』にも収録されている。

「未来予報」は時間軸すっとび系(きっと適切な呼び方があるのでしょーが)。男性の小学生から大人になるまでを描いているのに、一向に内面が成長しない様が非常に今日的。逆に女性の気持ちはほとんど書かれず、男性の妄言がきれいな言葉で埋め尽くされていた。そのあたりは共感しつつも若干の居場所の違いを感じた。リアルな体験を誘発する物語ではなく、あくまでも「こうなったらいいのに」という願望が刹那的に語られている。

「フィルムの中の少女」は文体が独特。乙一自身が『失はれる物語』のあとがきで「この頃はどうやって小説を書けばよいのかわからなかった」と語っていた事を思い出した。「失はれる物語」とあわせ、きっとこの頃の事を指しているのだろう。

乙一は世界観を設定するのが上手く、なおかつ早い。そしてその世界には内向的な人間が共有できる弱さと、その弱さをそっと慰めてくれる暖かさがある。不思議なことにそのあたりにちょっとヤラれている。

Posted by Syun Osawa at 21:49