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2004年11月06日

ロバート・ホワイティングかく語りき

大好きなライター(と彼は自分を表現する)、ロバート・ホワイティングのトークイベントに参加した。ササキバラ・ゴウ×大塚英志 以来のジュンク堂池袋店。ホワイティングは『東京アンダーワールド』や『和をもって日本となす』でも知られるように、日本人より日本に詳しい。下手糞ながら日本語も話す。今回は『イチロー革命』のイベントだったので、トークの内容は野球中心だったが、マニアックな日本の選手や関係者の名前がポンポン飛び出しすこぶる驚かされた。

ホワイティングは1977年、『菊とバット』でデビューする。同書はアメリカでも日本でも売れたが、出版に至るまでの経緯はそれほど順調ではなかったようだ。彼は日本の上智大学を卒業した後、出版社勤務を経てフリーになる。しかしアメリカの出版社に原稿の持ち込みを続けるも13社に断られた。14社目の会社の社長には「僕の出版する本は6割が黒字になる、君の本を出版してやるがこの本は4割の方だ。」と言われたそうだ。僕が彼の好きなところは、このエピソードの後に笑って「勘違いするなよ、ということね。」と言えるところだ。

彼は面白いエピソードも持っている。上智大学に留学しているとき、渡辺恒雄(読売新聞オーナー)の英語の家庭教師をしていたそうだ。ホワイティングは読売新聞記者だった当時の渡辺について、「頭がよく、勉強家だった。家にはドイツやフランスの哲学書が並んでいた。彼は相撲が好きで、野球は嫌いだった。」と言っていた。土田世紀著『編集王』の編集長のエピソードが頭をよぎる。かつてバイタリティにあふれていた若者が、社会の荒波にもまれていくうちに社内政治を覚え、嫌な大人になっていくあのエピソード。

観客の質問にこたえて取材方法についても語っていた。インタビューをするとき、取材対象者の著書をすべて読むことはもちろん、その人に関する著書も可能なかぎり読む。さらに、以前その人を取材したことのある記者、友人、家族を取材し、最後に本人にインタビューをするそうだ。『イチロー革命』も100冊の本と、100人へのインタビューと10万マイルの取材距離によって作られている。

以前、ある新聞記者が僕にこんなことを言った。

「僕はインタビューをするとき、その人の著書をすべて読む。ある作家にインタビューしたとき、『他の記者は1、2冊しか読まずに取材にくるけど、全部読んできたのはあなたが初めてよ』と言われた。」

僕はホワイティングの取材方法を知っていたので、そんな事を僕に自慢するなんて優秀なんだろうけど底の浅い人だなぁ、と思った記憶がある。

ホワイティングは『東京アンダーワールド』の続編『東京アウトサイダーズ』のあとがきか何かで、911のテロについて語っている(正確にはホワイティングが翻訳者の松井みどりに電話で語った内容を書いていたのだと思うが…)。シンプルな言葉の中に人間に対する愛が溢れていた。ニュートラルでアウトロー。うがった見方もないし、不必要な自慢もしない。62歳、鎌倉在住。こういう大人になりたいとつくづく思う。

Posted by Syun Osawa at 00:23