bemod

2005年01月02日

チェチェンやめられない戦争

アンナ・ポリトコフスカヤ/NHK出版

チェチェンやめられない戦争2004年度に僕が書店で見かけた本、手にとった本の中で一番好きだった装丁の本。それが『チェチェンやめられない戦争』だ。コントラストの効いたモノクロの配色と、アクセントとして配置された赤と山吹色のロシア語のバランスがいい。使用されている写真も戦争で破壊されたグローズヌイの美術館である。

チェチェンで起こっている問題を明確に把握することは難しい。林克明著『 カフカスの小さな国 』を以前に読んだが、戦争の根源的問題について多くを知ることはできなかった。誰が悪者で、誰が正者なのか? そういった短絡的な問いかけでは到底解決できない闇が、チェチェンの地に横たわっていることを、著者は一般人の目線から浮き彫りにしている。戦争は人の気持ちを荒廃させ、要領の悪い人間は死んでゆく。

現在起きているチェチェン戦争は、一見するとプーチンの強硬な姿勢が一方的にチェチェンを苦しめているように映る。あるいはアルカイーダの組織するテロリストとチェチェン人が手を組みロシア人を無差別に殺していると映っているかもしれない。しかし事はそれほど単純ではない。混乱を楽しんでいるヤツがいるのではないか。そいつらが相互依存し合っているのではないか。別冊宝島『同和利権の真相』のごとく、その混乱を継続させながら利益を得ている人間が蠢いているのではないか。そんな疑問が突きつけられている。そして、日々繰り返されるレイプ、略奪、処刑。こうした蛮行を双方が行ない、その狭間で多くの罪のない人々が死んでいく。アンナ自身も何度も危険な目に遭い、この本が日本で発売された2004年にも毒殺されかけた。

不思議で仕方がない。なぜアンナは、いつロシア軍部によって暗殺されるかもわからない恐るべき状況下で、これだけ真実に迫った文章を書けるのだろうか? ここにジャーナリストという職業の中にある二つの大きな人種を見つける。知的な欲求に突き動かされるジャーナリストと、生活の延長上にある問題に対して突き動かされるジャーナリストだ。僕はこの両者の間に決定的な根性の違いを見ないわけにはいかない。

Posted by Syun Osawa at 18:48