bemod

2006年01月26日

文化人たちの大東亜戦争 ― PK部隊が行く

櫻本富雄/1993年/青木書店/書籍

文化人たちの大東亜戦争満州事変から太平洋戦争終結までのいわゆる「十五年戦争」の時代、作家や画家などが文化人部隊として徴用された。この本はその当時の資料を集めたもので、データベース的に氏名と作品タイトルを列記している。

ペン部隊として参加した人の中には有名な人がたくさんいる。吉川英治、横光利一、菊池寛、火野葦平、大宅壮一、林芙美子、海野十三、井伏鱒二、石川達三、山本荘八などなど。映画人としては小津安二郎さんも従軍している。筆者はこれらの人を挙げて「死の売文家」というレッテル貼りをしているし、他の著作でも文化人の戦争責任を追求している本ばかり出しているようなので、そういうマニアの人なんだろう。こういう活動を正義だとは僕にはどうしても思えないし。

著者の意図をどう汲み取るかは各人の判断だと思うので脇に置くとして、この本に列挙された資料を見ると、実にたくさんの人が戦争プロパガンダ的な文章を書いたり、関わったりしていたことがわかる。例えば、文芸評論家の平野謙さんも『婦人朝日』(昭和17年8月号)や『現代文学』(昭和17年3月号)で大東亜戦争を謳歌するような文章を書いている。また、東条英機さんが「生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪禍の汚名を残すことなかれ」と示達した『戦陣訓』は島崎藤村が校閲し、志賀直哉、和辻哲郎が添削をしたらしい。

これに関連して、従軍経験のある大宅壮一さんが『太平洋戦争名画集』(ノーベル書房)の中で「文化人部隊の仕事」という小文を書いている。その中では、上に挙げた有名人の他に、川端康成さんも文化人部隊として従軍していたことが書かれてあった。

このあたりの時期の文化人たちの活動の是非を巡って、戦後いろいろとやり合ったらしいが、悲しいかなそちらの方(戦後団塊の世代)の言説は結局何も残ってない。いまだに日中戦争の話がメインで、その賛否について議論されてるくらいだし。「後世に残るかどうかを決定する権利」は大人の思惑とは関係なく若い世代に委譲されていくので、若いと思っていた全共闘世代もいつしか年をとり、それを判断する権利を次の世代に渡すことになってしまった。その世代もいつしか年をとり、また次の世代へ…という風に受け継がれるわけで、あと100年くらいした後に、この時期のことがどう話されているかは、結局のところ誰にもわからない。残ったものが歴史になるんだろう。嘘も真実もない交ぜにして。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:55