bemod

2006年02月09日

海がきこえる

監督: 望月智充/1993年/日本/アニメ

海がきこえるジブリが外注の監督で作った記念すべき脱宮崎駿・高畑勲アニメ第一作…のはずが、ジブリ作品の中で最も資金回収に時間がかかってしまっために2作目へと繋げられなかったのだとか。

この作品は夕方に地上波で放送されたテレビ用アニメで、僕も小学生のときにリアルタイムで見た記憶がある。当時はバブルだったこともあり、今見るとなかなか凄い時代感覚してる。田舎の高校生が普通に修学旅行でハワイ行ってるし(しかも小遣い10万円)、裕福で満たされた感じが画面を包んでいる。物語の軸になる悩み(マイナス要素)も親が離婚して、高知へ引っ越してきたというだけ。今ではどこにでもある日常だよなぁ。

勝気な性格の武藤というヒロインは髪型が思いっきり森高千里で、「叱られるのは嫌なのよ」と言ってみたり、主人公の杜崎なんて髪型がツーブロックで、スリムのGパンを履いている。この時代感覚…何でも当時は「平熱感覚」と言ったらしい(記憶なし)。

監督は『 気まぐれオレンジロード あの日にかえりたい 』や『めぞん一刻 完結篇』の望月智光さん。この人の描く日常のちょっとしたストーリーって、エアポケットのような感じで今なかなかお目にかかれない不思議な場所を見せてくれる。「平熱感覚」を後世に伝える稀有な監督なのかも。さらに描かれているキャラクターの等身、顔、背景に関しては僕的には最も好きな部類に入る。特に背景に関しては、作画監督の近藤さんいわく「ジブリの中で最もハイコントラストな背景」なのだそうだ。丁寧に見るとわかるが、背景は凄くいいです。キャラクターにしたって、等身が高いわりにIG系のハードなリアリティとも違う妙な柔らかさを持ってる。

本作のような普通の日常を描いた作品は、「実写でやればいいんでは?」と言われることがあって、高畑勲さんの『おもいでぽろぽろ』なんかでもその手の話が広がっていた。でも、10年以上を経過して見返してみると、やっぱりアニメと実写は明確に違う。アニメの最大の魅力は、キャラクターが歳をとらない(当たり前)。

背景は実際にある光栄の街並みをトレースする形で描かれているが、写真の役割を背景が担っているわけではない。必要なものは残し、無駄なものは省き、構図によってウソを加えている。キャラクターの方もリアルな等身だからといって、本物とは違う。キャラクターには必要以上の情報がないために、物語の中の感情だけが残っている。だから現実に近い世界観にもかかわらず『海がきこえる』は少しも色あせてない。ラストの背景回しは手描きの生々しさが出ていて、テンション上がったし。

この作品のオススメは、DVDの中に入っている制作者の座談会。ジブリの10年も振り返っていて、なかなか面白かった。ジブリの重鎮と若手の言い分に温度差がよく出てる。監督の望月智光さんが「ジブリの若手が育たないのはTVシリーズをやらないので、鍛えられない」と言うのに対して、プロデューサーの鈴木敏夫さんは「本当に才能がある奴は最初から輝いている」と返す。その輝いている人ってのが宮崎さんの息子であり、『ゲド戦記』だということですね。見るまでは何も言うまい。

Posted by Syun Osawa at 00:06