bemod

2006年03月21日

風が吹くとき

監督:ジミー・T・ムラカミ/1986年/イギリス/アニメ

風が吹くとき小学生のときに原作の漫画『風が吹くとき』(レイモンド・ブリッグズ/篠崎書林)を読んで、核兵器に対するトラウマを負ってしまった思い出深い作品。田舎に暮らす老夫婦の間の抜けた会話と、その間の抜けた会話の後ろ側で進行する恐ろしい事態の描き方は凄まじいものがある。

舞台はイギリスの田舎。ラジオはソ連とアメリカの冷戦がいよいよ最終局面に入ったことを伝えている。おじいさんはその放送に聞き入りながら、来るべき核戦争に備えてシェルターを作り始める。途中、日本の原爆についても話題に上るが、深刻には受け止めることはない。おばあさんは家事仕事に忙しい(しかも敵はずっとドイツだと思ってる)。

核爆弾が落ちても彼らは被害の深刻さを受け止めない。戦争が始まったことは認識するものの、政府に対する絶対的な信頼がそのまま残っている。「いずれは政府が事態を明らかにしてくれる。助けに来てくれる。」だがラジオはつかない。水は出ない。郵便物も届かない。携帯コンロの燃料もなくなってしまった。まわりに人は誰もいない。

「放射能」は目に見えない。気づかないうちに体が蝕まれる。被爆したのだ。歯茎から血が流れ、頭から毛が抜け落ちる。牧歌的な世界観の中で愛らしいキャラクター達が死んでいく様子は、僕にとっては受け止め難い深刻な事態だ。現実逃避としてのファンタジーを許さないからだ。人間の身体の所在をどこまでも丹念に追っている。

と、かなりテンションの下がったところで映像の方に目をやる。背景を3Dのような立体的な処理をしている。模型を使って映像の背景部分を作り、その後でキャラクターのセルを当てていったのだろうか。不思議な演出だけどなかなか冴えてる。

日本語監修として大島渚さん。原作者はスノーマンの人。曲はデビッド・ボウイ。テーマは反核。完璧な80年代コンボ。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 01:59