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2006年08月01日

日米架空戦記集成

編著:長山靖生/2003年/中央公論新社/文庫

日米架空戦記集成明治、大正、昭和(戦前)に書かれた戦争小説を集めたオムニバス作品。いわゆるシュミレーション小説というヤツ。

現代もこの手の作品は書き続けられている。『文藝春秋』とかでも架空の「日本vs北朝鮮」小説が載ってたりするわけで(安倍晋三さんが憂国の士風に書かれていたヤツ)、戦争力と妄想力はどこかでやはり地続きなんだと思った次第。戦争と芸術 の関連で、僕も『沈黙の艦隊』を全巻揃えたり、小林源文さんや滝沢聖峰さんの単行本を買ったりしているのだけど、どれも読んでいないまま。

内容はというと…

大日本帝国憲法下で書かれた戦争小説という事もあり、エモな部分(戦前の感傷的な感情)だけを気にして読んでみた。たぶんそういう読みをしないと、今のものと昔のものでそれほど変わるところがないと思うから。有本芳水「空中大戦争」のこんな感じとか。

「皇国のためじゃ、しっかりやんなさいよ。」
将軍は目を瞬いた。見よその両眼には暗涙が……。

ただ、今回のオムニバスに登場した作品の中には天皇にまつわるエピソードとか内容は皆無だった。意図的に外したのか、そもそも存在しないのかはわからない。

そんなわけで、一番の関心事は見事にスルーされたが、当時の下世話な流行なんかがわかって楽しかった。例えば、福永恭助「暴れる怪力線」に登場するトーキー映画ネタ。那珂良二「海底国境線」では、戦争が始まると街全体が地下に潜没する陰見都市ネタ(これなんてエヴァじゃん)。ほかにも、河岡潮風「日米石油胆力戦争」では海外の石油を止めて国内の石油開発を推進せよというトンデモな展開だとか、阿武天風「日米戦争夢物語」の「女優は娼婦」という価値観などなど。

それにしても気になるのが読者層。当時、こういう読み物はどういう人達が読んでいたのだろうか? 出典元を見ると『日本少年』『日の出』『改造』『新青年』『冒険世界』『富士』とある。『改造』しか知らないや。いずれにせよ、軍部主導でアメリカと戦争になったというよりは、日本国民が戦争を煽るような雰囲気があったことは間違いない。

物語的には三橋一夫「帰郷」が一番面白かった。最後にすべてをひっくり返す乙一の短編みたい。戦争から還ってきた兵士の物語と思いきや、実は桃太郎の帰還の一場面だったという流れ。読後感も爽やかで、かなり今っぽい作品だ。ちなみに、この作品は私家版(自費出版)らしい。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:08