bemod

2006年08月28日

夏と花火と私の死体

乙一/2000年/集英社/文庫

夏と花火と私の死体乙一さんのデビュー作。

死体目線の1人称とか普通に面白く、サクッと読み終えた。小学生の女の子が友達を殺すとか、連続殺人犯がすごく近くにいて真の目的を達成してしまったとか、ゾッとするような展開なのに、それを感じさせないところが乙一さんの凄いところかも。

夏の田舎の風景が頭にぼんやりと浮かんでくるような、ちょっと郷愁を誘う穏やかな日常描写に予定通りやられる。スルッと入ってくる心地よさとか。こういう癖のなさが、小説の業界ではどのように捉えられているは知らないけれど、少なくともエンタメ小説というのは、彼の作品のように次作も読みたいと思わせる何ものかがないとダメだよな…。

あと、何のインタビューかは忘れたけど、乙一さんは「この小説はシド・フィールド『 別冊宝島144 シナリオ入門 』(1991年/宝島社)を読んで書いた」というような事を語っていて、本作をそういう視点で見ると、たしかにハリウッド映画的な「緊張」と「緩和」を上手に使っている。頭の中に自然と映像が浮かんでくるのは、映画のシナリオ的な描写をしているからなのかなと、安易なことを思いつつ、僕もそれを読んでみようと決めるのだった。

もう一つの収録作品「優子」は、ゆっくりした時間の流れ方と箱庭的な悲劇が、その後の乙一作品につながっている印象を受けた。

Posted by Syun Osawa at 01:15