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2006年09月21日

忍者武芸帳 影丸伝(全2巻)

白土三平/1983年/小学館/愛蔵版B5

忍者武芸帳 影丸伝戦国時代に日本独自の民主主義が誕生してたかもしれないという空想。

戦国時代の農民たちの一揆を先導している忍者・影丸の理想は、自分が国の覇権を握ることではなく、百姓や武士という身分の違いを突破しようという階級闘争であった。こんな大スペクタクルを描く人って白土三平さん以外の漫画家さんではほとんど見かけない。

日本の歴史の裏側に忍者が活躍する話は僕が子どもの頃にもたくさんあった。楠桂さんの『 妖刀伝 』みたいな感じで、大きな歴史の転換点以外の部分を空想で接木する話。ただ白土さんの作品の場合は、歴史上の偉人をキャラ化して活躍させるというよりは、いつの時代にも変わらない人間の暗部というか醜い部分を克明に描き出しているところが特徴的だ。

ラストも素敵。野武士としての生き方を選んだ子どもがラストに百姓として新たな一歩を踏み始める。これなどは、黒澤明監督の『七人の侍』のラストにもつながる。

忍者といえば、横山光輝さんの『伊賀の影丸』全15巻(秋田書店)は忍者同士の対決が魅力的だった。『影丸伝』にも忍者同士の対決は出てくるが、忍法による対決などは横山作品のほうがワクワク感がある。逆に白土作品には百姓だけでなく、虐げられた身分の人達や障害者なども多く登場し、キャラクター漫画と割り切って楽しむだけでは収まらない生々しさがある。

作品中に白土さん自身によって語られる教訓めいたコメントは、古い小説でよく使われていた手法を漫画に持ち込んだと考えるのが妥当か。途絶えた手法かもしれないが。

この物語で中心的な役割を果たす一向一揆は、仏教徒が起こした一揆である。末木文美士さんの『 日本宗教史 』(岩波書店)の中では宗教の信仰があったからこそ激しい抵抗が可能だったと書かれている。さらに仏教徒が起こした一揆はこれだけらしい。そういや、顕如が宗教を使って民衆を利用したように描かれているものの、宗教についてはあんまり深く突っ込んでいなかった。

影丸(忍者武芸帳より)

Posted by Syun Osawa at 00:26