bemod

2006年10月20日

ニコポル三部作

エンキ・ビラル/2000−2001年/河出書房新社/B4変型

ニコポル三部作1巻 不死者のカーニバル
2巻 罠の女
3巻 冷たい赤道

絵が物語ってる。『 モンスターの眠り 』(河出書房新社)よりも内容がシンプルで、ニコポルとホルス(神様)の珍道中が楽しめる。そんな物語を支えるこってりとした絵の濃密なこと。

ニコポルは宇宙からの帰還者。宇宙にいる間は仮死状態だったため、帰還したときには彼の息子と同じ年になってしまっている。しかも同じ容姿で双子のよう、というSF的な設定。そんな未来にやってきたニコポルにホルスという不良な神様が憑依して、ファシストをやっつけたりチェス・ボクシング(何だそれ?)のチャンピオンになったりするのだ。

1冊あたり48ページの短い作品だが、フルカラーで内容も凝縮されているため日本のマンガのようにグイグイと読み進めることは出来ない。1コマあたりの熱量も高くどのコマも見過ごせないし、モブの一部に物語の複線などもちりばめられているなど1コマあたりの情報量が多い。1冊目と3冊目は三人称で描かれているが、2冊目はジルという女(ニコポルの恋人)の一人称で描かれているところも興味深かった。

また、2冊目のミステリー的などんでん返しや、3冊目の時代は繰り返されるという教訓など、テーマが『 モンスターの眠り 』よりもわかりやすい印象を受ける。ファシストが支配するパリとそれに対抗する勢力としてのチェコ・ソヴィエトという構図。第二次世界大戦後、冷戦を見据えたシンプルな視点。それが『モンスターの眠り』になるとユーゴ紛争とグローバル化が絡んできて、諷刺というよりは悲哀というにふさわしいテーマが裏側に込められ重くなる。そういう事情もあってか、ニコポルシリーズはわりとライトな感じで読むことができた。

バンド・デシネって楽しいな。もっと読みたいなぁ。アメコミは買い込んだのがかなりあるんだけど、BDはほとんどない。っていうか、日本語訳がほとんどない。近年の印刷技術の向上などを考えると、フルカラー漫画とはいえもう少し安く出せるんじゃないのかなぁ? 作家がハードカバーの高級な感じでないとダメと言っているのだろうか…。そうでないのなら、海外小説みたいにもっとシンプルな形で邦訳を販売してくれると嬉しいんだけどなぁ…。

Posted by Syun Osawa at 00:23