bemod

2006年11月25日

芸術起業論

村上隆/2006年/幻冬舎/四六

芸術起業論うわっ…面白い。

僕は村上隆さんが嫌いだった。ところが、この本を読んで好きになってしまった。人間の心とは移り気なものですな。好きになたポイントはいろいろあるけれど、一番は根性があること。世界のアートシーンに存在するルールを信じ、そのルールの中で勝利するために戦い続けている姿が体育会系のノリで良いのだ。基本的に僕は体育会系を愛している。

二番は、宮崎駿さんを尊敬していること。そういえば『EZ! TV』(フジテレビ)に村上隆さんが出演したときも宮崎さんへの思いを語っていたこともあったな。それでも彼に対して嫌な気持ちがあったのは、オタク文化の引用を身も蓋もなく行なったからだ。

ぼくはいつも、身も蓋もないプレゼンをしてきましたが、おそらく、身も蓋もないから社会と接触できたのです。つまり、「日本のアートは漫画オタクにある」とか「ファッションとアートのコラボ」とか。「アートは単純なルールで解釈可能だ」とか。
「それは、ないだろう!」
 そういうあからさまなことをやり、周囲から嫌われていくけど、嫌われる張本人にすれば「身も蓋もないことをやったもの勝ち」だということは、もう、はっきりとわかってやっているのです。
身も蓋もないものにはお客さんが載れる雰囲気があるのです。

全面的に正しいと思う。亀田さん兄弟のボクシングも含めて身も蓋もなさが破壊力を持つことは明らかである。それでも漫画やアニメを愛する人達やその行為を粗雑に扱っているようで嫌な気持ちになったのだ。こういう風に思うことも身も蓋もない反応なわけで、そういう意味ではこちらも正しいといえるのだが。

上記の引用で「プレゼン」という言葉が出てくるが、これも欧米の芸術界で生き残るためには必要らしい。自分の作品をいかに美術史のレールにのせるかを自分でプレゼンするという行為。下品に思うかもしれないが、僕はとても正しいと思う。なぜなら、美術の先生になることがゴールで、そのもっとも大きな権威が大学の教授であるという価値観よりはずっと戦っているように思えるからだ。

海洋堂との根性の入ったやり取りも凄い(僕は根性のある人が大好き)。村上さんが藤田嗣治へ親近感を持っていることについては、一定範囲で理解しながらも保留にしておきたい。彼の戦争に対する態度があまりよく見えてこないためだ。日本の芸術村を「エセ左翼」的であると息巻きながらも、ベタな反戦的行為にコミットしているようにも感じられる。『ユリイカ 2006年5月号』(青土社)の藤田嗣治特集で村上さんと蜜月な関係を保っている椹木野衣さんとの対談も読んでいないし、しばらくは読むつもりもない(ゆえに保留)。

気持ちの悪い表紙にもやられた。そしてカラー口絵として掲載されていた〈Tan Tan Bo Puking - a.k.a Gero Tan〉にもやられた。彼の作品を生で見てみたい気持ちになり始めている自分もいるから不思議だ。

僕の生涯教育の一つである 戦争と芸術 関連では、保留にした彼の戦争への視線を知るべく「リトルボーイ」展の図録を買わないといけないのだが、1万円オーバーなのでかなり迷っている。貧乏人なので古本屋で5000円程度になるのを待つほかないかな? それだけのお金があるなら中国の戦争がに関するある本を買いたいとも思うし…。

というわけで、僕は村上隆が好きである。彼へ痛烈な批判を浴びせている大塚英志さんの言動にも戦争関係では理解できる部分があるけれど、少なくとも彼らがそれぞれに作り出す「作品」を比べたとき、僕は迷わず村上さんの作品を選んでしまうだろう。今のところ。

(関連)戦争と芸術

Posted by Syun Osawa at 00:25