bemod

2007年01月23日

天の夕顔

中河与一/1954年/新潮社/文庫

天の夕顔なぜに中河与一? …って感じですが。

何でもこの作品、戦前から戦中にかけて42万部を売ったらしい。その時期のロマン主義的な文脈と保守の美意識を反映しているのだろうか…。うーむ。

話はいたってシンプル。ある文武両道に秀でた学生(理系)が、夫と子どものいる7歳上の女性に恋する話。相手の女性もこの学生に思いを寄せるが二人は一線を越えないまま、いつしか縁遠くなってしまった。それでも男はこの女性を愛し続ける。そして40歳を越えた頃には彼女を忘れるべく山にこもるが、彼女への愛は強まるばかりだった。

彼女が47歳になった頃、あと一度だけ会いたいと決意した男は彼女の元へ。戸惑いながら出迎えた彼女は「五年たったら、おいでになっても、ようございますわ」とおあずけして(そのとき、あんた52歳やで…)別れる。そして五年目を迎える前日、彼女は息を引き取ってしまうのだ。絵に書いたような悲劇…なのかどうかはわからんが、ともかくこの話が大衆の心を掴んだらしい。

両想いなのに結ばれないのから悲劇なのか、それともただ純粋に一人の女性を愛し続ける男の姿が悲劇なのか、後者なら小谷野敦さんの「 悲望 」の方が強いインパクトを受けるのだが、おそらく前者なのだろう。

最近、中河与一をはじめとする新感覚派あたりが気になりはじめ、戦前の文芸誌『新科学的文藝』も含めたところに歴史がグルグルとらせん状に繰り返し続けている様を感じたいと思う今日この頃。

Posted by Syun Osawa at 23:08