bemod

2009年05月07日

よみがえるユーラシア ― その光と影

2009年4月18日/10:30−17:00/立正大学 石橋湛山記念講堂

よみがえるユーラシア ― その光と影立正大学って自転車での乗り入れ禁止なのね…。僕の知るかぎり初めての経験だったけど、他にもそういう大学あるんだろうか? 守衛さんのご好意により何とか置かせてもらって助かった。

イベントのほうはというと、これがかなり面白かった。講演者も豪華だったし、内容も知らないことばかりで勉強になった。相変わらずロシア(つーかユーラシア?)は熱いなw

以下、感想メモ。

黙過 ― ドストエフスキーと現代

by 亀山郁夫

おそらく多くの人が目当てとしていた亀山郁夫さんのドストエフスキーの講演。ドスト作品はいくつかの短編と『罪と罰』しか読んだことがないために、ほとんどスルー状態になると諦めていたら、亀山さんが新訳で出された『罪と罰』をメインに話をされていたのでラッキーだった。3分の1くらいは理解できたかなw

神と信仰、そして黙過の問題は、神についてほとんど考えることの無い僕にはかなり難しい。人間が世の中の悪事を黙過するのではなく、神が信仰を持つ人間の不幸を黙過しているように感じられる状況をどのように理解するのかなどの話は、深すぎてようわからん(この状況認識でさえ正確でないのが悲しいw)。

関係ないけど、講演の中で何度も「類推の限界性」という言葉が頻繁に使われていた。類推の限界性を意識しながら語るというのは、アラン・ソーカル『 「知」の欺瞞 』の先にあるような話にも受け取れるし、わりと流行しそうな言葉だと思う。

露呈したメドベージェフ・プーチン「タンデム」政権の弱点

by 月出皎司

この講演は元首相のメドベージェフに焦点を当てた講演で、かなり勉強になった。この講演を聞く前の僕の認識は次のようなものだった。大統領時代のプーチンはKGBの力をフル活用しながら、豊富な資源を武器にしてスターリンさながらの独裁的な政治をやっており、首相になった今でも影から大統領のメドベージェフを操り人形のように動かしている。僕はずっとそんな風に思っていたのだ。

そして、その流れの中でチェチェンの問題やアンナ・ポリトコフスカヤの事件などは起きたと考えていた。しかし、事態はそれほど単純ではないらしい。プーチンの周りにいるシロビキ派がプーチンを押し上げるためにさまざまな事件を起こしている可能性も強いのだ。そういう状況下で、プーチンは大統領にメドベージェフを指名した。

メドベージェフはかなりリベラル派であり、プーチンは彼のようなリベラル派にロシアの未来を託している。ところが、ロシアではシロビキ派(治安・情報機関出身者)の力が根強く、その力を押さえ込むための弁慶役としてプーチンは首相になったというのだ。もちろんこれは、月出氏の解釈ではあるものの、実際に、先日のニュースでロシア軍はチェチェンからの撤退が公表されたので、かなり的を得た解釈なのかもしれない。

もしもメドベージェフが、シロビキ派による言論弾圧やジャーナリスト暗殺、さらには軍部の無法者が裁判で無罪になって釈放されるような状況に歯止めをかけようとしているのだとすれば、それは喜ぶべきことだろう。

そのほか、投資関連の話では、ハイテク産業をふくむ製造業の荒廃ぶりを指摘されていた。投資では経済発展が著しい国の頭文字をあわせた「BRICs」という言葉が使われる。この言葉の「R」はもちろんロシアなわけだが、ロシアが今後さらにヤバくなるだろうという見通しをされていたので、新興国関連のETFとか投資信託についてちょっと不安が残った。一番値上がりが期待できるのになぁ…。

飲み込まれない辺境?『グルジア問題』を考える

by 前田弘毅

グルジアを含めてコーカサスの状況を、これまで僕はまったく理解できずにいた。一応チェチェン関連の本は何冊か読んでおりが、なぜこれほどまでに多くの民族が入り乱れて生活しているのかを教えてくれるものは無かったように思う。今回、講演者の前田氏が「平家の落人部落みたいなもの」と言われて、なんか妙に納得するものがあった。

今、グルジアは英語圏に親しみをもたれるために「グルジア」ではなく「ジョージア」と自分たちの国を呼ばせようとしているらしい。スターリンを生んだグルジアがロシアを離れて、アメリカやEUとの距離を縮めようとしているところも興味深い。

このあたりの小国はどこも生き残りをかけて必死のようだ。

似たような状況が旧ユーゴでもあった。イスラム教徒が多いコソボがアメリカやEUに擦り寄って、セルビアからの独立をはたしたのだ。イスラム教圏の小地域がアメリカに助けを求めて独立するというねじれ方に妙な違和感を感じたのだった。

逆に南オセチアは独立できなかった(つか大半の国が承認の投票を棄権した)。Wikiによると、グルジアは75%がグルジア正教徒で11%がイスラム教徒らしい。過去にいろんな生活様式、言語、宗教の国に征服された国というのは、こういう状況になるのかな?

ところで、旧ユーゴの民族紛争でも感じたことだが、これまでも決して裕福ではなかった国が、さらに細分化したとして、いったいどうやって彼らは自立した国づくりをしていくつもりなのだろうか? 戦争ばかりやって、世界中の国々の支援によって生きながらえているような状態で、それでも自分たちだけの国家をつくろうというモチベーションが僕にはわからない。彼らを突き動かしているのは何らかの利権なんだろうか、それとも自分たちのアイデンティティなんだろうか。これは島国生まれ、島国育ちの僕にはどうにもわからない。

Posted by Syun Osawa at 01:48