bemod

2009年10月17日

こころ

夏目漱石/1927年/岩波書店/文庫

こころ1914年に朝日新聞で長期連載された小説である。約100年前に書かれた小説が、今でも多くの中高生に読まれているんだから凄い話だ。…と書きつつ、僕は読んだ記憶がない。もしかすると、僕も学生時代に読んでいたのかもしれないが、まったく覚えていなかった。

この作品がなぜ名作と呼ばれていて、なぜ教科書に載っているのか、理系脳(スイーツ脳にも劣る!)の僕にはよくわからない。序盤、主人公の学生が、海で見知らぬ先生を追い回す(しかも無言で)というBL風な展開はちょっとワクワクした。でも良かったのはそこまでで、その後のグダグダな日々は前置きとしても、学生の父が死んだ直後の大変な時期に、先生が学生へ送った超KYな長文、これが作品のクライマックスなのだが、これが思いのほか肩透かし気味だったのだ。だから僕は、終始「どないやねん?」って思いしか浮かんでこなかった。学生が先生のKYな長文を読んだ後の台詞として、最後に「知らんがな…」と書かれてあったら、僕も救われたのだが。

結局は他人から秘密をぶっちゃけられても、その心はわからないのだ。いや、先生はわかろうとはしなかったのかもしれない。最後の手紙の中で、Kや妻の心を想像してはいるものの、実際にその心に触れようとしている様子はない。常に一方的である。極端に少ない登場人物たちは、他人の考えを自分の考えにフィードバックしたりはせずに、ただ純粋に相手を思うことそれ自体で目の前の世界を規定しているようである。したがって、その視野は驚くほど狭い。そして、その狭さが反転して無限(永遠)へと拡大されていく感覚というのは、少し前に流行したセカイ系の話とも繋がっているように思える。

池谷裕二『 単純な脳、複雑な「私」 』に書かれていた心の曖昧さは、たしかにこの本を読んでも感じられるものだった。ベタに読めば、Kへの贖罪の気持ちから先生は死んだのだろうけど、それなら何故もっと早く自殺しなかったのかということも、なぜ学生へ手紙を書いたのかということも本音の部分ではわからないままだ。よく考えたら、学生や先生の妻についても同じことが言える。この作品に出てくる登場人物たちの心って、全部わからないままだったw

Posted by Syun Osawa at 01:11