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2010年01月03日

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?

西村博之/2007年/扶桑社/新書

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?どうせ肩透かし食らうだろうと思って期待せずに読んでみたら、なかなか面白かった。2年前の本なので内容的にはちょっと古いが、見通している未来予想図は至極まっとうで、うなずけるものが多い。また、ひろゆきと僕は同い年ということもあってか、収入など含め、生きている環境がまるで違うにもかかわらず、ベースの部分で共感できるところが結構あった。

例えば、悲観的な考えから出発しているところなどがそうだ。彼はいつも、身も蓋もない発言を繰り返しているが、そこから絶望や諦めに向かうのではなく、上手くいかないのなら上手くいかないなりに、どうやったら前に物事を推し進められるかを考えている。そして、そちらの思考法への信頼(つまり自分への信頼になるのかな?)には楽観的である。こうした部分には共感できるところが多い。

さらにもう一点、こちらは趣味の問題かもしれないが、ヒエラルキーの生成を嫌っている点である。普通の社会でヒエラルキーができることは当然なのだが、例えばオルタナティブな場所であっても、そこに人が集まってコミュニティができると、必然的にヒエラルキーができてしまう。知り合いが増えればそこに特権意識が芽生え、ある一定の規模になるとクローズされる。その連鎖は必然ともいえる。ネットにおけるアルファブロガーなどは一見するとフラットな状態に見えるのだが、有名ブロガー同士が交流し始めると、そこにコミュニティが生まれ、やがては階層構造がつくられる。これは学者やライターなどでも同じことが言えるだろう。

ひろゆきはそれを徹底して嫌っているのだ。そして、この徹底こそが、2ちゃんねるを2ちゃんねるたらしめていた理由ではないだろうか。

これは、共産党も真っ青の階級破壊のように僕には思える。共産党的な伝統的な左翼勢力は、階級闘争のために、暫定的に前衛を設けて、一般大衆を先導しようとする。しかし、ここにちょっとしたトリックがあるようだ。この「暫定」は「永遠の暫定」であり、多くのリベラル左翼達は、自分達が前衛に立ち続けることの魅力に取り付かれているのだ。だから、まわりの人からは、確固たるヒエラルキーが存在していることを自明視されているにもかかわらず、当事者たちだけは暫定的だということで、それを否定するのである。ひろゆき氏は、この権力への誘惑に決して取り付かれないための態度として、今も変わらず飄々とした態度をとり続けているわけだ。この抑制は自覚のあるなしに関わらず、とても凄いことだと思う。

ここまで書くと何だか,オルタナティブの雄として褒めすぎている気もしてきたw そういうつもりはない。対談を読むかぎりにおいては、性格的にああ言えば上祐(古っ!)的なところがあるように感じるし、必ずしも本音をストレートに出しているわけでもないのだろう。彼はよく旅をしているそうだが、そういう一面から想像するに、彼もアイデンティティの喪失を楽観的に捉えているばかりではないのだな…と思ったりもした。

あと、ひろゆき氏が2ちゃんねるの次にヒットさせたニコニコ動画の一側面を形成しているニコニコ生放送におけるコミュニケーションにおいて、気になる流れがある。それは、コメントの後ろに「@」をつけて、2ちゃんねるのコテハンのように密なコミュニケーションをとる人が増えてきていることだ。これは配信者と匿名の視聴者の間のコミュニケーションを崩すものであり、コミュニティのクローズド化であり、ヒエラルキーの生成でもある。2ちゃんねるのコテハンもその役割を担っていたが、こちらはコテハンを名乗っても結果的には匿名であるのに対し、ニコ生の場合は配信者同士、または一部のコテハン視聴者との間にリアルなコミュニティが出来る点が大きく違う点である。この本においては、ひろゆき氏はこのことに否定的であるが、現状はそちらのほうに向かっている。

この点は以前書いた ニコ生の行方? ― マスとパーソナルの間で と合わせて考えていることがあるので,いずれ別の無駄話で触れたいと思う。

PS.

2009年1月にひろゆき氏は2chを海外の会社に譲渡したそうで、その影響もあってか書き込みに対する規制(誰かが違反した書き込みをすると、同地域のプロバイダ使用者は全員規制される)が増えた気がする。とはいえ、削除人はそれぞれ別々に動いているわけで、ひろゆき氏がいなくなったこととは関係がない。しかし、いくらシステムが上手く回っているからと言っても、そこにあるオルタナティブをスーパーフラットな形で温存することを一つの理想形として捉えなくなったら、2chも一気に崩れ去ってしまうかもしれない。今の規制条項はその問題にわずかな影を落としているのではないだろうか。

Posted by Syun Osawa at 00:56