2010年03月15日
専務の犬 ― 高橋留美子傑作集
高橋留美子/1999年/小学館/A5
高橋留美子の短編集。上手いとしか言いようがない。
短編集はこれまでにも何冊も出ているが、この短編集は『ビッグコミック・オリジナル』に掲載された作品を中心にまとめられたもの。つまり、『犬夜叉』のような広い男女のターゲットへ向けて書かれた作品ではなく、中年男性にメインターゲットを絞って描かれている。
これを読もうと思ったきっかけは、山本おさむ氏が『 マンガの創り方 』という本(この本も神!)の中で、大人向けの短編「Pの悲劇」を徹底解剖していたことだ。集合住宅に暮らす普通のサラリーマン家庭で起こるちょっとしたドタバタをいかに面白く描いているか、その面白さがいかに練られたものであるかを山本氏は『 マンガの創り方 』の中で解説されていた。
今回の短編集でも、物語の多くは普通のサラリーマン家庭で、ストーリーも大きな起伏があるわけではない。にもかかわらず、日常のありふれたできごとの中から、ドラマになりそうな部分を上手く拾い上げて起伏をつくっている。その導きがあまりにも達者で、いつの間にかるーみっくわーるどに引き込まれてしまうのだ。もちろん、大人向けの作品なので、わかり易すぎないオチにはしていないものの、それでも高橋節というか、読後にちょっとだけ暖かい気持ちが残る残響みたいなものに彼女の世界の奥深さを感じる。この感覚を批評的に読み取って、母性のディストピアなどとは呼びたくないよね。
面白くないことが一つあるとすれば、書かれた時期が古いこともあるが、この短編集で描かれている中流サラリーマンって、父親の年収で言ったら700万円から1500万くらいで、今の世の中で考えると決して中流ではなくなってしまっているという悲しいやね…。
Posted by Syun Osawa at 01:21