bemod

2010年03月25日

g2 vol.3

青木理、立花隆、石井光太 他/2010年/講談社/A5

g2 vol.3同書の刊行記念シンポジウム に行ったときときに購入。シンポジウムのテーマが「デジタル出版の未来」だったこともあって、同書の特集と内容がモロ被りだったが、本のほうもクリス・アンダーソンの『フリー』が示したデジタルコンテンツの状況をコンパクトに知るにはまずまずの内容だったと思う。ただ、状況を俯瞰することだけの目的なら『週刊ダイヤモンド 2010年3月13日号』のほうがわかりやすい。

正直なところ、状況を俯瞰したところで、何がどうなるというわけでもないし、僕自身、「売り上げがどれだけ減るか?」「業界で働く人の数がどれだけ減るか?」という生々しい話しか今のところ興味がない。というのも、デジタル化が進んでも、既存のコンテンツとデジタルコンテンツでは同じ価格帯にならないし、流通を含めコンテンツと顧客との間にあった仕事がどんどん間引かれていくわけだから、制作コストが削減される分、同様に人も削減される。つまり、どうあがいても商品の点数の増大と反比例して業界の規模自体はしぼんでいくしかないのだ。

こういう状況でテンション上げろって無理だよねw

この本には、そんなテンションの下がる特集以上にテンションの下がるノンフィクションが2本掲載されていた(しかし、こちらはかなり面白い!)。以下に感想を書いておく。あと、感想は特に書かないが、立花隆氏の小沢一郎に関する記事は、フリージャーナリストやブログ論壇とは真逆の小沢悪玉論を展開していてなかなか興味深かった。

青木理「ルポ鳥取連続不審死事件 誘蛾灯」

スナックのホステスの周りで連続して起きた謎の不審死を追ったルポ。たいして綺麗でもなく、小太りの中年女性が次々と男を落としていくのだが、その相手というのが秋葉原事件の加藤ほどわかりやすいものではない。最初が読売新聞の記者、次がイケメン警官、やり手の車のディーラーと、「なぜこの人が?」という人が、彼女にハマっていく。ハマる動機も様々だ。

このニュースは埼玉で起きた婚活殺人事件ほど話題にならなかったが、その理由はこの被害者のわかりにくさにあったのではないかと思う。逆に言えば、テレビで取り上げられるものはわかりやすいものだけ、時代を象徴しているような事件(秋葉事件とか)だけなのかもしれない。本当は、その恣意性の裏側には曖昧な死がたくさんあって、現代はむしろその曖昧性、不確実性のほうが増大している気さえするのだが、どうなんだろうか…。

石井光太「銃を持った子どもたち」

死と言えば、こちらはもっと強烈だった。ウガンダのゲリラ組織・神の抵抗軍によって誘拐された村の子ども達が、洗脳され、少年・少女兵として戦地へ送り込まれる状況を追ったルポなのだが、内容が過酷すぎて読んでいて辛かった。

神の抵抗軍では、誘拐した子ども達を完全なゲリラ兵に仕立てるために自分の親を殺させる。しかも拒否すれば、自分が殺される。こうした残虐行為が日常的に行われているという。また、部隊から逃げ出さないようにするため、体の一部を傷つけるという行為も行われているようだ。

ルポに登場した3人の少女のうち、1人は唇を切断され、もう1人は鼻と耳を切られた。本の中に鼻と耳を切られた少女の写真が掲載されていたが、かなりグロい。その少女は、運よく政府軍の厚生施設に入ることになったのだが、その容姿では生きていけないと感じ、結局施設を逃げ出して再びゲリラ組織に戻ってしまう。そして、彼女はスパイ扱いされてゲリラ組織に殺されてしまった。

世の中には、「良いことと悪いことはみんな同じ割合で半分ずつ」だと信じている幸せ者もいるが、そんなことは絶対にないなと、このルポを見てつくづく感じた。石井氏はこういう極限の人たちのルポを結構書いているようなので、いくつか彼の本を読んでみようと思う。

Posted by Syun Osawa at 01:50